特集 人工知能AIの診療支援システム
人工知能AIの予診から高精度な診療を実現する
2019-08-22
人工知能AIを医療に活用する取り組みが活発だ。画像診断や問診などの診療支援システムのほか、患者自らが受診の必要性を考えるときのアプリ、また居室内のセンサーが日常生活などをモニタリングして、それをAIが分析。発症リスクを知らせてくれるようなものもある。6月に開催された第19回抗加齢医学会ではシンポジウム「ビックデータ・AIと医学・社会」が開催され、最先端の研究者たちが報告した。


デジタルヘルスアプリのニーズが高まる

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の矢作尚久氏は、「次世代の生活基盤としての医療社会システムを考える~これまでの医療を見つめ、医療を再定義する~」を講演。デジタルヘルスアプリなどの診療支援ツールの活用について報告した。

矢作氏によると、デジタルヘルスアプリが広く普及しはじめた2015年ごろ、アプリの種類ではウェルネス管理するものが7割以上を占めていた。

その中でもエクササイズやフィットネスに使うアプリが多かったほか、ライフスタイルやストレス関連、食事や栄養関連のアプリも目立っていた。一方、ヘルスケア管理アプリは27%にとどまっていた。

それが2年後の2017年になると、医療情報などを提供するヘルスケア管理のアプリが40%に急増した。なかでも特定疾病関連のアプリが増加。女性の健康や妊娠、服薬通知や情報のアプリも利用が多い。その一方でウェルネス管理は60%に減少しているという。

デジタルヘルスアプリは、疾病や健康の医療情報についてニーズが高まっている。これは患者の意思決定支援に関わることだ。患者自らが健診情報を確認。また病状を理解することで意思決定の意識が高まる。このなかには専門医や医療機関を検索することで患者を支援するようなアプリも含まれている。

健康状態もICT機器によって、患者自らがモニタリングすることも可能になる。そして医師はこれらのアプリを推奨する時代になる。人工知能AIが搭載されたアプリによる病状評価や予測データを持って患者が受診し、主治医は予測データを参考にしながら多面的に患者の状態を診断することが一般的になるかもしれない。


鑑別診断を一次的に人工知能AIが実施

人工知能AIによる診療支援システムの開発も盛んだ。外来受付での問診データから身体所見を予測するといった技術開発も進んでいると矢作氏は報告した。

医師は患者を多面的にとらえて、症状や身体所見などのほかにも生活歴や既往歴を考慮しながら、膨大な医学的知識を駆使して診療を展開する。そのとき人工知能AIは、患者の時間的な変化を観察したり、関連する情報を抽出するなど診療支援を提供する。病態変化を予測したり、鑑別診断を補助することもできる。

重症度を予測したり、鑑別診断を一次的に人工知能AIが行い、医師の確定診断を支援する。この医師による診療の意思決定プロセスが技術化されようとしている。


診療支援システムで初期対応が大幅に短縮

AIによる診療支援システムが導入されると、問診などの初期対応が大幅に短縮される。電子カルテも、AIが作成した下書きを医師が修正することになるかもしれない。そうすると医師は現在よりもじっくりと患者と向き合い診察しやすくなるだろう。

問診からの初期対応は、例えば診察支援システムを導入した医療機関では、患者は自宅か病院でパソコンやタブレットの自動問診システムに入力する。このとき画面に表示されるのは従来からの画一的な問診項目ではなく、AIにより個々の患者に最適化された問診票だ。そうすることで診察に有用な情報を的確に収集する高度な問診が可能となる。

問診内容をAIが分析。そして予測所見が提示されるとともに、AIが受診科を振り分ける。問診内容に応じて予測される診察項目、検査・処置も表示される。


患者視点のValueで評価するシフトに転換

このような診療支援システムが導入されることで、患者への重複した問診の回避、重症患者への素早い対応(緊急性判断、トリアージ)、施設稼働率の向上、待ち時間の短縮、外来対応の省力化、無駄な検査の削減、指示や入力ミスによる事故予防などが期待される。

「ITによって現場が効率化すると、医師と患者の信頼関係づくりにつながる」と矢作氏。実際、矢作氏らの研究でも問診時間やカルテ記載時間、看護師による初期対応時間の短縮につながっている。また重症化や見逃しを防ぎ、診療成績の向上になるという。

人工知能AIによる診療システムによるインテークで患者の情報を高精度で引き出せると、重症化の兆しを早期にとらえることができる。そして従来よりも早いタイミングで治療を始められれば、症状の悪化を和らげて、入院加療が必要なほど重症化することを防げるケースも増えるだろう。

矢作氏は、これまでの画一的な分析結果を指標としたEvidense Based Medicine(EBM)から、医療の質や単位時間当たりのコスト、サービスの内容などを複合的かつ連続的な患者視点のValueで評価するValue Based Medicine(VBM)へとシフトできる環境が整ったと説明。インフラとして、よりよい医療のあるべき姿に立ち、次世代の社会システムを設計していくとまとめた。


■精神疾患の症状を客観的に評価する人工知能AIシステムを開発

多くの新薬開発プロジェクトが頓挫

慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室の岸本泰士氏は「人工知能技術を活用した近未来の精神科医療の展望」を講演した。

岸本氏の説明によると、日本におけるうつ病や不安症などの精神患者数は320万人、認知症患者は462万人と多く、社会費用もうつ病3.1兆円、認知症14.5兆円と巨額となる。

これは製薬会社にとっては無視できないマーケットのはずだが、「精神科薬の治験や効果証明が難しいため、多くの新薬開発プロジェクトが頓挫している」という。原因は症状を定量的に評価することの困難さだ。

医師や患者の主観によるバイアスもあるため症状を評価しにくい。そのため一定の条件で治験対象となる患者を適切に選ぶこともできない。すると効果を客観的に評価できず、新薬開発が進まない。


症状の定量化に人工知能AIを採用

精神科では診断のためにさまざまなスケールが用意されている。しかし繰り返し利用すると、患者の学習による練習効果で、その診断制度は低下する。テストを繰り返すことで治療の効果測定の精度も低下する。

認知症の重症度であれば、長谷川式簡易知能評価スケールや、Mini Mental State Examination、ウェクスラー記憶検査などがある。これからは記憶力を中心に、認知機能を広く浅く、もしくは狭く深く評価する。

一方で簡易な検査はおおざっぱであり、詳しい検査には1時間以上もかかることから、患者の負担は少なくない。つまり、治験に適したスケールがなかなか見つからないのだ。「抑うつ気分をうまく測ることができない。あいまいな尺度の積み重ねでは、薬を評価しにくい」

そうしたジレンマの中で精神科薬の開発が進んでいる。症状の客観的な評価は治療でも同じことがいえる。この症状を定量化することの難しさに、岸本氏ら人工知能AIを採用することでチャレンジしている。


人工知能で話し方の特徴を解析・定量化

精神疾患の症状は患者の行動や生活と密接に関連している。そして現代社会ではICTが、さまざまな生活場面に普及している。この環境ではインターネットを介して生活を観察することも可能だ。

岸本氏は講演の中で、スマートフォンの音声認識アプリを活用して患者の音声を分析し、双極性障害の気分変動を検知する研究を紹介した。またデジタルペンの技術で、認知症を早期に診断する研究も進んでいるという。

現在、岸本氏が代表研究者として取り組むプロジェクトが、「表情・音声・日常生活活動の定量化から精神症状の客観的評価をリアルタイムで届けるデバイスの開発」だ。日本医療研究開発機構(AMED)の「ICTを活用した診療支援技術研究開発プロジェクト」として採択され、多くの参画企業との共同研究が展開している。

患者の表情を撮影した画像を点数化して、この計測データを人工知能によって分析する。またある種の認知症患者の会話では特定の品詞が減少する一方、増える言葉もある。人工知能で話し方の特徴を解析・定量化することで認知症の早期発見につなげたいという。

「精神疾患の労働災害は増えている。こうした技術で労働者のストレスを計測できる」と岸本氏は期待している。

(文:社会福祉士 安藤啓一/医療タイムス)

 

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