特集 今すぐ病院がすべきこと(後半)
病院に求められる働き方改革
2019-05-14
■オピニオン

病院に求められる働き方改革
~自院の問題を「人」「仕組み」の両面から見直し、取り組むべき

働き方改革関連法案の成立により、病院においても今後、働く環境や体制を見直す必要がある。働き方改革および医療機関に求められる取り組みについて、株式会社コンクレティオの三塚浩二代表取締役に解説してもらった。


働き方改革とは

日本が本格的な人口減少社会に突入するなか、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものを再考する、成長制約要因の解消に向けた取り組みが「働き方改革」です。

働き方改革の推進にあたり、政府では2016年8月に働き方改革担当大臣を新設。2016年9月には安倍首相を議長とし、有識者や労使のトップをメンバーとする「働き方改革実現会議」を始動しました。2017年3月28日には同会議での議論を踏まえて働き方改革の実行計画が決定、2018年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法案)」が成立。今後はこの法律に沿って、働き方改革の検討が進められていく予定です。

「働き方改革」の全体像を理解したうえで、医療機関においてどのような取り組みが求められているかについて述べたいと思います。

働き方改革実行計画で示されたテーマは、表1のとおりです。このなかで、医療機関において取り組みが難しいとされるのは次の点です。

・ 同一労働同一賃金など非正規社員の処遇改善
有資格者には相応の賃金を提示しなければ、人材の確保が難しいため、正規・非正規ともに相応の金額を提示せざるを得ない現状がある。

・ テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
テレワークについては、業務の性質上困難であり、事務系職種といえども患者情報を扱う関係上、難しい。副業・兼業については既に多くの診療所で(非正規職員に対し)認められている。

・高齢者の就業促進
有資格者であれば検討の余地はあるが、事務職については比較的採用がスムーズにいくため、他職員との年齢バランスや事務作業の能力などを考慮すると積極的な高齢者の活用は難しい。

・外国人材の受け入れ
医療機関の方針にもよるが、有資格者が多く、患者や他職員とのコミュニケーションを考慮すると、外国人の受け入れには消極的になる。

医療機関については、人材が不足しがちな医師や看護師の長時間労働をはじめ、独自ルールを設けて年次有給休暇を法定付与日数未満にする、パートタイマー等に付与しない、時間外手当を支給しない等の違法行為を行っている例が散見されていますが、そのような対応の多くはこれまで明るみに出ることはありませんでした。しかし、2017年5月に厚生労働省は労働基準関係法令違反の事業所をホームページに公表。また、昨今、労働基準監督官の増員や一部業務を社会保険労務士等に民間委託し、定期監督業務の強化に動き出す議論も行われています。

今後、このような労務コンプライアンス違反に対する取り締まりはより強まっていくことは世の中の流れを見ても明らかです。まずは経営者側が正しい労務知識を理解し実践することが医療機関の働き方改革のスタートラインになります(表2)。

労務コンプライアンス対策は、経営陣が中心となり早期に対応を協議していく事案になりますが、現場レベルにおいて働き方改革を進めていくうえで着目していただきたいのは、労働生産性向上についてです。


労働生産性向上の取り組み

働き方改革において長時間労働の是正、時間外労働の削減等が目につきますが、安易にそのような取り組みを行えば、現場が混乱するだけです。ポイントはどのような改善を行い、長時間労働の是正、時間外労働の削減というゴールに近づけるかという点です。

一般的に生産性という言葉の定義は数値で定義した場合、付加価値を分子、投入資源を分母とした数値で表現され、生産性向上とはこの数値が増加することとされています。医療機関でいう労働生産性向上の取り組みとは、「投入資源を一定(投資する場合もある)としながら、付加価値(医療サービスの品質、提供スピード、収益)の向上を図る取組」と定義することができます。

これまで医療機関では、専門職集団という特性から、組織力より個々の能力に依存する傾向が強く、仕組みやルールづくりといった組織開発を軽視し、能力の高い人材を中心に業務を進めていくことを優先することが多々ありました。結果として業務が標準化されておらず、組織的管理が不完全な状態で現在に至っている医療機関も少なくありません。このことは専門能力を高める教育を重視し、組織形成に求められる階層別研修が軽視されがちな傾向をみても明らかです。

従って付加価値(医療サービスの品質・提供スピード・収益)の向上を図るには、これまでの業務フローや組織的役割、階層別人材育成についての見直しを行い、問題・課題の抽出・分析・評価を行う必要があります(表3)。

表3で示した、▽組織的職務内容の明確化および関連教育、▽職務連携と委任、▽業務の標準化(業務マニュアル整備・周知)-については、すでに着手済みの項目では再度見直す必要があるか否かを検討します。未着手の項目は、自院の現状に鑑み、実現可能性があるか否かを検討する必要があります。

またその際、医療従事者は大きな変化を好まない方が多いため、独断で急激に取り組みを開始するのではなく、ミーティング等で議論を重ね、社会情勢の変化から医療機関内の改革の必要性を職員に理解してもらうことが大切です。


人材確保と定着の基本的な考え方

労働生産性向上と併せて取り組まなければならないのが、人材の確保と定着です。人材不足の解消には、確保(採用)の部分と定着(離職防止)の両面から検討していく必要があります。

給与面からのアプローチには限界がありますし、そのような取り組みで確保した人材は、近隣の医療機関で好条件があれば、そちらへの転職を考えます。従って取り組みのポイントは長期就業できる職場環境整備です。

具体的な取り組みについては表4に示しています。職場の人間関係やモチベーションを維持できる環境や制度、この職場で成長したいという意欲等、さまざまな因子がありますので、病院としては現状を分析し、優先順位を決めて継続的に取り組んでいく必要があります。

医療や介護のような労働集約型ビジネスの成功の秘訣は、「人材」であるという話をよく聞きます。たしかにそれは誤りではありませんが、人材が機能するための仕組みや制度がなくては事業の発展は期待できません。医療現場における「働き方改革」の本質はこの部分にあり、自院の問題を「人」と「仕組み」の両面から考えて取り組む必要があるのです。また、他の成功事例をそのまま取り入れ短期間で成果を出そうとしているケースも見受けられますが、事例と自院の状態がイコールであれば問題ないですが、類似しているようで問題の本質が異なっているケースは多々あります。従って通常はアレンジや独自性を加え、中長期的な視点に立ち、継続的に課題解決をめざしていくことが求められるのです。

働き方改革は2019年4月1日の法施行より、いよいよ本格始動すると言っても過言ではありません。これまでさまざまな取り組みをすでに進められている医療機関も、これを機会に一度原点回帰し、改めてこの働き方改革の意義を再考し、取り組まれてみてはいかがでしょうか。


■現場の声

具体的な対応策 事務の視点
~業務量や繁忙期を把握現場に支障ないシフトを組む

働き方改革関連法の施行を事務部門はどのように捉え、対応すればいいのか。大規模病院を束ねる医療法人社団永生会の田野倉浩治本部統括部長・事務部長は、管理職が一人ひとりの仕事量を把握し、調整する能力の必要性を説く。


「現場は休みを取る、身体を休めることが大事」が基本的な考えです。これまでもみんなが休めるようなシフトを組めるように、スタッフが仕事をしやすい環境をつくってきました。

働き方改革関連法では有給休暇の年5日取得が義務づけられましたが、当院は回復期~慢性期ということもあり、有休や振り替え休暇は取りやすい。年5日の有休はほぼ全員が消化できています。これを機に、なるべくまとまった休みが取得できるように働きかけていきたいと思います。

一方、急性期病院では職種によっては有休が取りづらい。法人内の南多摩病院では、医師が平日に振り替え休暇を取得するのは難しくなっています。

看護部では時間外労働が発生した場合、その時間分を振り替えて休んだり、残業が多い手術室では半休が取れるように制度化したりしています。また、看護基準よりも10%多く人員を確保しているため有休も取れていますが、コストがかかる医師を多く確保するのは現実的ではありません。どうしたら医師が休めるのかを検討しているところです。まとまって休みを取れば担当する患者さんを診られないという使命感もあると思いますが、医師同士で調整するなどタスクシェアも進めていくべきです。


休暇取得を認め合える組織風土をつくる

有休取得は奨励しますが、一定の期間に集中してしまうと病院は回りません。当院では夏休みの取得期間を6~11月と幅広く設定することで調整しやすくしています。医療現場に支障のないシフトを組むためには、一人ひとりの仕事の把握が大事。誰がどれだけの業務を抱えていて、いつが忙しいのかといった把握は課長、事務長と重層的に管理しています。事務部門だと医事請求の担当者については交代して休めるよう工夫しています。休暇の取得を認め合える職場風土があれば、働き方改革もできていると思います。


(フェーズ3 2019年3月号)

 

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