特集 医師発信の医療機器開発(下)
アイデア発掘の必要性と在り方とは
2018-11-07
【医師の立場から】
現場のニーズ由来による医療機器開発を医師が実現

子ども時代に使われた必要な知恵や創意工夫

東京慈恵会医科大学外科学講座教授の大木隆生氏は、自らが日本やアメリカで経験してきた医療機器開発の実際を報告した。

大木氏は現役外科医であり、決して医療機器開発のプロではないという。ただいわゆるサイドビジネスとして医療機器開発を行い、そこから医師としてのキャリアアップを図ってきた。

大木氏は高知県出身で、子どものころは、実家の目の前にある川でいかに多くの魚を釣るかに専心し、自作の毛バリやルアーを製作した。それは大会で入賞するほどの実力だったが、そのときの「より多く釣果を得」「そのための道具製作」の思考が、外科医になっても役立った。外科医にとって必要な知恵や創意工夫は、このときに培われたものだという。

大木氏が外科医になって最初に教わった手術は、盲腸や脱腸だった。次にそれを教える立場となれば、「果たして教わった手術は有効なのか」との検証が必要となる。事実いろいろと調べてみると、脱腸手術では低侵襲の方法の論文が英国にあった。それは脱腸の欠損部に膜を張るというものだった。大木氏は、自ら人工的なメッシュを作成し膜として欠損部に充てる手法を考案。医師になって5年目にして初めて治療器具を自ら開発した。実はそのメッシュは数年後に、海外メーカーによって製品化され販売されることとなる。

また大動脈瘤手術は大木氏のいわば本業だった。高齢者に多いが、開腹して手術することは、その後の処置、合併症を考えるとできるだけ避けたい。そこにニーズがある。大木氏は南米の医師がステントを使った大動脈瘤治療の論文を発表していることを知る。大木氏はアメリカに留学し、ステントの方法を学ぶ。ただその方法は死亡率が高くアメリカでの実施は中止されていた。

そこで大木氏は手先が器用な日本人の特性を生かし、細く、しなやかなステントを自らが考案し、FDAに提出。再度臨床で使えることとなった。その後、そのステントを使った手術は正式に認められ、多くの大動脈瘤患者を救うことになる。

そのほかにも頸動脈にあるプラークによる脳梗塞を予防するバルーン付きのステントを開発。これはアメリカにいるシリアルアントプレナーが活躍し、事業化にまで至ったという。

このように大木氏は大手企業をパートナーとしたり、便利グッズ案件などを扱いながら医療機器を開発。ニーズ由来とアメリカという土壌に助けられ、高い成功率を誇ったという。


本業先細りのものづくり企業が転身する機運はアップ

現在は日本で活躍している大木氏だが、最後に日本における課題と展望を述べた。日本の場合、大手メーカーには医療機器開発に着手したものの、失敗するリスクを負うわけにはいかないとの考えがあるという。
逆に成功体験が少なく、官僚主義的であるために社内の合意が得られず、さらに役員会にも医療機器部門出身がいないのもネックになっている。ただ高付加価値な医療開発で名を馳せているフィルムメーカーのように、本業が先細りとなる場合は医療機器開発への転身は考えられるとした。

日本は医師が忙しすぎるとともに、大企業も医療機器に難色を示す。製品化しても製販業が乏しいなど厳しい現実がある。

それでも大木氏によれば、高度管理医療機器となるクラスIII、クラスIVの医療機器開発はまだ黎明期であり、日本は若干スタートが遅れただけと指摘。新規参入を阻んでいる欧米パテントが次々と失効している中、本業先細りの国内のものづくり企業が転身する機運はアップしているのではないかと強調した。

今は世界のトップに成長した自動車産業も、1950年代の創生期はアメリカのメーカーに水をあけられていたことを紹介。「その例からみても、日本の医療機器開発は今に追いつき追い越せるに違いない」と訴えた。

(取材:田川丈二郎/医療タイムスNo.2370)

 

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