特集 オンライン診療の現在(2)
広がる可能性と課題
2018-10-23
乳幼児や障がい児の通院困難ケース 医療の質向上にもつながる
外房こどもクリニック 院長 黒木 春郎 氏

適応は急性期ではなく病態も安定していること

早くからオンライン診療を取り入れてきた外房こどもクリニック院長の黒木春郎氏は、「小児プライマリケアにおけるオンライン診療の経験」について報告した。

同院は小児医療の過疎地域にある。小児科専門医が常勤している近隣の医療機関は50km離れている。そうした地域の小児医療を常勤医3人でカバーしている。

「2年ほど前、オンライン診療のシステムができたとき、新しい技術としてビデオチャットによる診療をはじめた」

オンライン診療の適応は、急性期ではなく病態も安定していること。問診と視診で診療が可能な患者の場合だ。さらにビデオチャットで意思疎通ができることも条件となる。そのためには医師と患者が安定した関係を作れていなければならない。

さらに対面診療がしにくい通院困難ケースであること。基礎疾患のある患者や、家族構成、生活状態などにより通院できないなど。働きながら子育てしているため遠距離通院と仕事の両立が難しい場合もある。

「新しい技術が新しい医療の概念を作るのではないかと考えている」


オンライン診療により通院負担が軽減

どのようなケースでオンライン診療が適用となるのか、黒木氏はいくつかの事例を報告した。

■患者1
いつも夕方、診療終了時間の間際に受診していたぜんそく患者(1歳)がいた。双子の兄弟がいて生活が忙しく、長期管理がうまくいっていない。定期的な通院もできていなかった。そこで状態が安定した後、オンライン診療を勧めた。するとその後はアドヒランスも良好となり、長期管理が持続でき、病態も安定している。

これは生活環境がアドヒランス不良の原因だった。そこでオンライン診療を導入して、医療が定期的に介入するようになったことで、母親も治療に取り組めるようになったケースだ。


■患者2
神経発達症(ADHD)の患者だ。治療開始から一定期間が経過し状態は安定しており、長期管理ができる。しかし患者は学童児のため、通院で学校を欠席したくない。そのような通院困難からオンライン診療の導入を勧めた。

これはオンライン診療によって医療の質が向上した好例だ。黒木氏は「オンライン診療だから家庭での様子が分かった。それは診療所の外来で診ていたときの様子とは違った。オンライン診療には患者志向という優位性がある。在宅医療に近い感覚だ」

■患者3
14歳の重度心身障害児だ。嚥下障害がある。日常的な通院を10年以上続けていたが、高度な医療が必要なときは1時間以上かけて中核医療機関を受診していた。全介助のため、通院準備も含めると大きな受診負担となっていた。そこでオンライン診療を勧めた。

小児の医療過疎地域であることから重症の患者も診察している。オンライン診療の導入によって外来受診の回数が減り、通院負担が軽減された。


偏在する医療資源をオンライン診療で解決

同院では専門的な治療をしていることもあり、東京、神奈川、埼玉などからの受診もあり、そうした患者にもオンライン診療を勧めてきた。疾病別ではアレルギー性鼻炎や気管支喘息が多い。またアトピー性皮膚炎、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症、気分障害の患者でもオンライン診療の利用が目立つ。年齢では5~9歳が最も多く、次いで10~14歳となっている。

「小児医療全体の視点からは患者と家族のQOLを上げることが大切だ。苦しみを取り除くだけでなく、生きる喜びを与えることだ。

そして小児科に限ったことではないが、医療資源は偏在している。この問題はオンライン診療を適切に使うことで解決できるのではないか」

これは通院が患者家族のQOLを引き下げているとの実感からでてきた話だ。そして医療の偏在は今後さらに顕在化してくる。

「子どもの人口は減っているが、小児医療の要望は増えている。オンライン診療についてのさまざまな懸念には、技術を誰が使うのかという視点が欠けている。その適用は現場の医療者が決めていくことだ」


オンラインが患者家族のQOL向上 遠隔健康医療相談で子育てを支える
株式会社Kids Public 橋本 直也 氏

臨床現場の現実から小児科オンラインを発想

オンラインで受診勧奨をするサービスを提供している株式会社Kids Publicの橋本直也氏は「小児科遠隔健康医療相談『小児科オンライン』の取り組み」を報告した。

同氏は小児科医の勤務を続けながら同社CEOとしてオンライン診療を立ち上げた。子どもの健康と社会構造に関心があり、大学院では公衆衛生学を専攻。院生時代に同社を創業した。

運営している「小児科オンライン」はスマートフォンから直接、小児科医に相談ができるサービスだ。

「このシステムを思いついたきっかけは臨床現場だった」

救急外来に幼い女子が搬送されてきた。右足が2倍に膨れ上がっている。母親に聞くと、「私がやりました」という。こうした悲しい虐待ケースを目の当たりにした。

「この家族との出会いで、とてもやるせない気持ちになった。この子を治療することは重要な医療の役割だが、小児科医としてなぜこの子を守れなかったのかと、自分の中で強く感じた」

この家族の生活は孤立していた。その結果として、子どもの健康は損なわれてしまった。

「病院で待っているだけでは、このような家族に手が届かない。そうであればスマートフォンやICTが活用できるのではないか。そのような思いから事業を始めた」

技術ありきではなく、課題がまずあり、それを解決するためのツールとしてオンライン診療の事業が生まれた。

「小児科では、少子化で子どもの人数が減っている中でも、受診する患者数は横ばいかむしろ増加傾向にある。この背景にあるのは、決して子どもの病気が増えているのではなく、親の不安が増えてしまっている」

親は生活や子育て不安から思い詰めて子どもに手を挙げてしまう。また軽症でも受診する背景には、誰にも相談できずインターネット検索で不安ばかりが大きくなっていることもある。

「子育ての不安が取り残されている。そうした家族に小児科医が寄り添っていくことを目的とした事業だ」


ICT上で切れ目ないケアを目指す

小児科オンラインは平日18時から22時までの4時間サービス。LINEチャットか電話で小児科医に相談できる。利用対象は同社と契約している自治体の住民か企業の従業員家族。費用は契約先の自治体や企業が負担している。原則として患者の費用負担が発生しないシステムにしている。

相談内容は多岐にわたる。

「夕方から熱が出たがこれから救急外来に行くべきだろうかという質問もあるし、悩みに近いような相談も受けている。相談内容はこうあるべきとの制限することなく何でも気軽に聞いてもらえるようにしている」

同社調査によると対象児童は0歳が47%と圧倒的に多い。次いで1~5歳の42%だった。接続手段はチャットが39%と多い。次いで音声電話の37%。テレビ電話は18%だった。受診判断を求められたケースは37%。そのうち受診指示に至ったのは3%と少なかった。軽症や健康相談のケースが多い。

オンラインでの説明には96%の人が「十分に理解できた」と回答している。

利用後の受診動向について同社は契約している保険者の協力で調査した。全129件についてレセプトとの突合から24時間の動向を確かめたところ、相談の半数が夜間に受診しようか迷っているケースだった。そして相談後に夜間受診したケースは0例。翌日受診も16例にとどまっていることが分かった。もしもオンライン相談ができなければ、相当数が受診していたことだろう。

「オンライン相談では画像を添付できるので情報量が多い。また受診すると別の病気にうつるのではないかと心配している親は多い。LINEチャットだから本当のことをいうことができたというお母さんもいた」

小児科外来はとても混み合っている。医師との信頼関係はあっても、待っている他の患者さんのことが気になり、障がいのある子どもの子育てについて相談できずにいた母親の事例だ。

「子どもの障がいは自分のせいではないのか」と母親は考えていた。オンラインでその相談を受けた担当医師は、母親の生活習慣などをヒアリングした上で「お母さんのせいではありません。すくすく育っているお子さんを見守ってあげてください」と伝えることができたという。

「ICTを活用することによって新たな医療コミュニケーションを引き出すチャンスがある」と橋本氏は期待する。そして新たなサービスの実用化を目指している。

「子育ての不安は妊娠期から始まっていることが多いので産婦人科オンラインを開発している。ICT上での切れ目のないケアを目指している」

(3)へつづく

 

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