特集 医療法人M&Aの核心(4)
法人、理事長、従業員の全体最適とは
2018-06-29
【事例】
計画通りに事業承継が進まない最終手段に選んだのはM&A


≪事例1≫
親族承継を阻んだ持分なし医療法人への移行

医療法人社団O会は関東地方で100年の歴史を持つ外科を中心とした2次救急告知病院(100床・10対1)。M理事長は3代目で73歳。近隣に急性期病院が開設されるなど、地域の医療ニーズが変化したのに、3代続いたプライドから外科病院に固執した結果、最盛期に比べて年間収入が数億円減少して13億円に落ち込んでいた。職員数も最盛期から変わらず220人を雇用していたため、人件費が過剰となり、3期連続で2億円の赤字を計上していた。

M理事長に子どもはいない。71歳の弟が院長を務め、46歳の甥がいたが、甥は他院の勤務医だった。

事業承継の検討に入ったM理事長は、持分なし医療法人への移行を実施したが、この判断が親族承継を妨げる原因になった。持ち分なしに移行すれば、出資持分払戻請求権と残余財産分配請求権がなくなる。法人譲渡時に出資持分に応じた対価を得られなくなるのだ。

翌年、M理事長は弟と甥にそれぞれ承継の意思を確認したが、弟は「自分も年を取ったので、今さらいいよ」と断わり、甥は赤字経営が続いていることを理由に断わった。ただ、甥には持分あり医療法人で引き継ぎたかったという思いもあったらしい。

日本M&Aセンター執行役員・医療介護支援部長の谷口慎太郎氏は「持分ありと持分なしとでは譲渡時の手取りに倍以上の差が出てくる。家族会議を開いて手取りの差を明確にしてから新認定法人への移行を検討すべきだ」と助言する。

親族承継が叶わなかったM理事長はM&Aを知り、76歳のときに同センターに譲渡を相談した。翌年、回復期・在宅に強い病院グループへの譲渡が実現。地域の医療ニーズに合わせて病床機能を転換したところ、1年後には単月黒字に転換した。


≪事例2≫
雇われ院長に出資持分を与えず院内承継がとん挫

12年前にさかのぼる。50年の業歴を持つ関西の医療法人社団I会は、病院(一般病床50床・15対1)と介護事業を運営していた。

法人職員数は200人。年間収入は12億円で、5,000万円の利益が出ていた。

2代目のT理事長は55歳で、子どもはいない。そこで10年前から同院に勤務していた40歳のN医師を後継者候補として院長に起用し、院内にも候補であることを周知した。2年後、T理事長は介護事業を拡大させる。法人は持分ありのままだった。

それから8年が過ぎて、52歳になったN院長は退職して、独立開業した。N院長は就任して10年が過ぎてもいっこうに出資持分を持たされず、オーナーシップが与えられなかった。後継者候補に指名されたままで、事業承継がまったく実施されていなかったのである。

一体、いつになったら経営を任せてもらえるのか。N院長は不満を募らせ、いわば権限移譲を待ちきれず独立に踏み切った。黒字経営だったにもかかわらず、当初の計画だった院内承継の道は断たれる。しかもN院長が退職したのち、病床稼働率など経営悪化の兆しが見えるようになった。

その2年後、67歳になったT理事長は、大手病院グループに法人を譲渡した。

(取材:小野貴史/医療タイムス No.2352)

 

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