特集 医療法人M&Aの核心(3)
法人、理事長、従業員の全体最適とは
2018-06-28
【解説】
後継者が40歳前に承継したほうが承継後の経営はうまくいく
日本M&Aセンター執行役員 医療介護支援部長 谷口 慎太郎 氏


事業承継ファンドの活用で親族外の内部人材に承継する

各業界で事業承継が円滑に進まないケースが頻発しているが、日本M&Aセンター執行役員・医療介護支援部長の谷口慎太郎氏によると「最も事業承継が難しい業種は診療所である。例えば心療内科診療所院長の息子が医師でも、息子の専門が心臓血管外科だったら後継者にはならないだろう」。M&Aが選択されるゆえんである。

実際、M&Aセンターの医療介護事業者M&A成約件数は急増を続け、2011年に6件だったが、2012年に12件、2013年に20件、2014年に30年、2015年に32件、さらに2016年に56件、2017年には70件で推移している。

谷口氏は医療法人が売却される要因について、(1)後継者不在(2)建築費上昇、生産年齢人口減少、診療・介護報酬引き下げなどによる先行き不安(3)理事長と医師の兼務による心身の限界(4)建物の老朽化による建て替えの必要性増加‐の4点を挙げる。

医療法人の事業承継には内部承継と外部承継(M&A)があり、内部承継には、親族の承継と親族外の内部人材(役員・従業員など)への承継という2つの手段がある。親族に医師がいれば内部承継もできるが、医師が不在の場合、選択肢は親族外への承継もしくはM&Aになる。ここでM&Aが選択されるケースが多いが、それは親族外の内部人材にとって資金力が課題になるからだ。

谷口氏は、この課題をクリアする手段に事業承継ファンドの活用を提言する。

まずファンドが理事長の出資持分を買い取り、経営幹部の医師が新理事長に就任する。ファンドは法人の借入金も借り換えて引き受けるが、新理事長から個人保証は取らず、役員を派遣して事業承継をサポート。その後、新理事長はファンドから持分を買い取って、新体制に移行する。「事業承継ファンドは世代交代のバトンの受け渡し役になる」(谷口氏)という。


漠然とした承継意思と明確な成功イメージ

事業承継の成功は何が決め手になるのだろうか。谷口氏は「承継者に漠然とした承継意思がもともとあったこと。明確な成功イメージがあったこと。この2つである。さらに覚悟とエネルギーを持っている」と語った上で、白鳳会グループ(兵庫県赤穂市)理事長・古城資久氏の発言を紹介する。

古城氏は『業界メガ再編で変わる10年後の日本』(渡部恒郎著)で次のように語っている。

「もし病院を引き継ぐなら、できるだけ若いうちに経営者になるといいと思います。私の周りでも、40歳を前に経営を引き継いだ病院はうまくいっている気がします。若くないと、無茶できないですからね。経営には『バカ力』も必要です」

事業承継時の後継経営者の年齢については、中小企業庁も若さを強調している。

「経営者年齢が上がるほど、投資意欲の低下やリスク回避性向が高まる。経営者が交代した企業や若年の経営者のほうが、利益率や売上高を向上させており、計画的な承継は成長の観点からも重要」(『事業承継に関する現状と課題』)

若さは伸びしろとセットである。経営者のスキルに伸びしろが大きいかどうかは、業績に顕著に反映する。谷口氏も「承継候補者がより若いほうが、成功する可能性は高まる傾向にある。早い段階での検討と家族会議が何より重要だ。医療法人、院長個人、従業員の3者がWin‐Win‐Winの関係になるように全体最適で承継を計画的・段階的に進めてほしい」と助言する。

さらに法人売却後のライフプラン設計も、理事長個人にとって重要なテーマである。現役の医師として診療を続けるのか、他の分野で活動するのか。あるいは悠々自適の日々を過ごすのか。ここでも家族会議が重要な役割を担っている。

(4)につづく

 

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