特集 医療法人M&Aの核心(2)
法人、理事長、従業員の全体最適とは
2018-06-26
買い手候補とのトップ面談で地域医療と人材育成方針に共感

日本M&Aセンターと提携仲介契約を締結して以降は、資料収集に着手したが、M&Aの準備を従業員に察知されてはならない。どんな方法を取ったのだろうか。

「半年契約でコンサルタントに入ってもらった。そのコンサルタントが売掛金の帳簿を必要としていると説明して、M&Aに必要な資料を従業員から取り寄せた」(聡一朗氏)

資料をもとにセンターが売却価格を算定したのちは、売却先の選定に入った。石垣氏が提示した希望は次の6つである。(1)従業員を継続雇用する(2)医師の採用力がある(3)医療と経営を分業した組織経営ができる(4)従業員の研修制度がある(5)医療に対する考えが自分に合う(6)一定以上の持分価値で評価してくれる。

6つの希望に対して、聡一朗氏は「よくここまでの希望を出すなあと思って、父の話を横で聞いていた」と回想する。

次のステップは、買い手候補の医療法人理事長とのトップ面談である。面談場所は都内のホテルだった。石垣氏はどんな印象を持ったのだろうか。

「投機対象として見られていたら嫌だなと思っていたが、相手の理事長は在宅医療や地域医療を真剣に考えていた。専門職の育成や地域のネットワーク構築などにも熱心で、非常に高い志を持っていることが面談で感じられた。職員の継続雇用も約束してくれて、信頼が高まった」


従業員への説明会では簡潔に、正直に、正確に説明

その後、売買価格や石垣氏の引継期間、引継期間中の給与などの条件交渉、基本合意契約を経て買収監査に入った。担当したのは主に聡一朗氏である。

「非常に厳しい監査だった。段ボール3箱分の資料から、全従業員の1年分のタイムカードをくまなく調べたり、公認会計士が総勘定元帳に記載された金額を1件、1件調べ挙げたりした。一番大変だったのは法務で、11人の弁護士が来て5~6時間、質問攻めに遭った。M&Aセンターの担当者が同席して、質問の趣旨を説明してくれるなどのサポートをしてくれたので何とか乗り切れたが、2度と経験したくない(笑)」

弁護士が11人も登場するのは医療法人のM&Aでは極めて異例だが、売却先法人の企業が上場企業だったことから、上場企業と同等の監査が実施された。その結果、通所リハの職員がタイムカードを打刻してからミーティングを行っていた事実が判明して、未払い残業代を指摘された。

さらに当初の計画を変更する事態にも直面する。通所リハが年間2,000万円の赤字を計上していたため、通所リハを切り離して2つのクリニックへの売却に変更され、通所リハは介護事業者に売却されたのだった。

最終契約の締結後は、従業員への開示を行った。法人幹部には調印式の約10日前から個別に伝えていたが、全従業員には調印式を終えた直後に伝えた。

「心がけたのは自分自身の気持ちを簡潔に、正直に、正確に話すことだった。譲渡先法人の理事長も同席して、説明会は穏やかな雰囲気だった。周囲の医師たちに報告したときには『なぜ?』と反応されたが、事情を話したら理解してくれて『うまくやったね』という感想もあった」(石垣氏)

現在、石垣氏は城西神経内科クリニックに非常勤医師として勤務し、患者をフォローしている。

(3)につづく

 

twitter

facebook

ページトップへ戻る