「患者がカルテを管理する時代」
診療情報の開示に医師・患者はどう向き合うか
2018-05-30
メディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV)は1月17日、都内でプレスセミナー「患者がカルテを管理する時代‐医療データの利活用が未来を変える‐」を開催した。病院が管理している患者の情報の扱い方について、医療者・患者双方の視点から議論を交わした。



患者に関する診療情報は誰のものか

ゲストに神野正博・社会医療法人董仙会恵寿総合病院理事長と山口育子・認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長を招き、トークセッションの形で進行した。

まず話題になったのは「診療情報は誰のものか」。神野氏は「病院で有している患者の診療情報のうち、どこまでが患者のものか」という視点を提示した。大きく「客観データ」と「所見・覚え書き等の主観データ」の2種があるとし、このうち客観データは患者のものであることは論をまたないとしても、覚え書きについては判断が分かれるとの見方を示した。「私は医師による診断、判断までは患者のものだと考えているが、それをどうお渡しするかで難しい問題が出てくる」とつけ加えた。

山口氏は「患者は、診療情報を『自分のもの』としてどこまで活用できているか」という論点を示した。

「自分のデータは自分のものだと思っているが、その内容を理解し、読み解き方までわかってはじめて、自分のものとして解釈できる。大半の患者にとっては単に『このデータはあなたのものです』と言われても、意味の分からない記号と数字が並んでいるだけ、というのが現状ではないか」


「夢のような時代」だが患者には責任も伴う

「カルテ共有時代」における患者と医師の関係についても議論になった。山口氏は「今から30年ほど前に大病を患ったとき、自分の検査結果も、自分が服用する薬のことも教えてもらえず、とても悔しい思いをした。あの時から比べれば夢のような時代」とした。

ただし、そうした環境に適応できている患者はまだ少ないとの見方も山口氏は示した。「一般の方がカルテ開示の時代になったからと言って率先して自分の情報を手にして、読み解いて管理しようとしているかというとそうはなっていない。むしろ不信感を持った人しかカルテ開示を求めていない。カルテに書かれている情報は『見てもわからない』という事情が大きい」

一方、神野氏によると、医療側にとっても新たに向き合うべきテーマという。

「私が診療の第一線にいた頃は、本人に聞かず、まずご家族に『ご本人に伝えますか』と聞くことからスタートしていた。医師側にとっては、開示すると、細かい検査数値や症状などについて説明する責任が生じる。隠しているほうが楽だった面もあるが、こうした姿勢はもはや通用しない」

山口氏は「患者にも同様に『責任』が伴う」と語った。

「私たちはこれまで、情報さえあれば理解でき、消化できると漠然と思っていたけれど、実際に専門家と同じくらいのスピードと量で情報が入ってくるようになっている。それに基づいて治療にかかわり、決定の責任も伴うことを忘れていた面がある。多くの一般の人たちは『どうして素人である私が決めなければいけないのか』という姿勢ではないだろうか。情報を共有し、聞けば答えてもらえるようにもなった。そうなれば当然、『あなたならどうする』と聞かれるようになる。そこまでの心構えができていない面はある。医療側だけでなく患者側も成熟する必要がある」


患者も「チーム医療の一員」という意識が重要

情報共有を前提とした医師と患者の関係やコミュニケーションのあり方に話が及んだ。

神野氏は「『チーム医療』がもてはやされているが、患者さんもチームの一員という覚悟が求められる」と述べ、さらに生活習慣病等を念頭に置きつつ「今や医療は患者さんが病院に来てから仕事が始まるのではない。人びとの生活に積極的にかかわっていく必要がある」と強調した。患者の日常生活に関するデータを採り込みつつ、病院のデータも合わせて医師が確認できれば、患者にとってもより良い診療を提供できるようになるという。「カルテコ」はそのための有力なツールになると期待を寄せた。

山口氏は、現在はまだ患者側から診療情報の「開示」を求めるのは「ハードルが高い」と述べ、「カルテコを導入している病院のように医療側から提示してもらえると、検査データの意味することなどについても質問しやすい」としつつ、「患者も『自立した患者』になっていかなければならない。患者の診療情報を共有するという問題は、自分自身の問題ということを訴えていきたい」と語った。


患者情報共有を進める恵寿総合病院

そうした医師と患者の情報共有の実践例として、恵寿総合病院が2017年9月より導入している、MDVのWEBサービス「カルテコ」の状況が報告された。これは、患者が自身の診療情報の一部を保管・閲覧できるサービスで、患者はIDとパスワードを入力すれば、パソコンやスマートフォンで自身の傷病名、検査結果、診療中に使われた薬(投薬)、処置・手術、処方された薬などを閲覧できる。

現在、同院では外来患者を対象にサービス提供しているが、利用者は400人程度。同院の外来患者数は1日約800人だが、神野氏は「感覚的には1ケタパーセントが利用しているイメージ」と説明した。特に積極的に推奨するというよりは「利用したいと思った患者さんにおすすめしている」という姿勢であるものの、口コミで広がりつつあるという。

山口氏が患者側の利用法として「離れて暮らしている子世代が親の診療情報を随時確認できるようになると安心できるのではないか」と指摘すると、神野氏は「患者さんご本人がID、パスワードを教えればスマートフォンでも確認できる」と応じ、さまざまな用途があることを強調した。

神野氏はセカンドオピニオンへの活用にも言及した。

「そもそもセカンドオピニオンを聞くのに、かかっている医師から紹介状とデータをもらわないといけないというのは、おかしい。『カルテコ』の仕組みがあれば、患者さんがちょっと気にかかった時に気軽に他の医師やかかりつけ医に聞くといったこともできる」

また導入にあたっては医師の反対は皆無だったという。「治療の一助になると考えているようだ」(神野氏)

(フェーズ3 2018年3月号)

 

twitter

facebook

ページトップへ戻る