特集 地域医療構想と働き方改革(後編)
2018年テーマの焦点を問う
2018-02-14
【討論】
医師の働き方改革が向かう先は一般労働者と異なる労働時間の設定

これまでのような長時間労働が放置されれば医師の健康管理に支障を来たすが、一般労働者に適用するような労働時間の上限設定をすれば、救急医療や産科医療は成立しない。働き方改革を進める上で、この2つの問題にいかにして着地点を見いだすのか。10日開催の「地域医療構想と地域包括ケア」で意見が飛び交った。

<討論参加者>
司会:田中滋氏(慶応大学大学院名誉教授)
パネリスト:伊原和人氏(厚生労働省大臣官房審議官)、今村聡氏(日本医師会副会長)、猪口雄二氏(全日本病院協会会長)、後藤隆久氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター病院長)、松田晋哉氏(産業医科大学教授)、古川俊治氏(参議院議員)


労働側と医療側が同じ方向で議論を進めるようになった

-医師の働き方改革と専門医制度について、ご意見をお聞かせください。

伊原 働き方改革は難しい問題ですが、若い人の過労死問題などを考えると、医師や看護師に対しても同じように取り組んでいかなければなりません。他方、医療の現場を見ると、医師の献身的な努力で成り立っている現実があります。医療需要が増えていく中で、この2つの折り合いをどうつけていくか。厚生労働省では多くの人に参加いただいて検討会を開いていますが、「労働者としての生活をしっかりと守るべきだ」という声もあれば、医師の仕事の特殊性を指摘する声もあります。

アメリカのテレビ番組を見ていたら、インターバルで働いている医師の研修生が、診療途中に「時間になったから帰ります」といって、上司の教授が「何ていう時代になったのだ」と嘆くシーンがありました。どの国も同じ問題を抱えているのだなと考えさせられました。こうした世界の流れの中で、医師の働き方をどうするかを考えていかなければならないと思っています。

-大変重要な問題提起としての情報でした。

今村 医師の働き方、医師の偏在、医師の養成の在り方、この3つの問題が走っていて、それぞれが密接に連携しています。医師の働き方については、委員会の当初は、労働側と医療側とで意見が対立する雰囲気がありましたが、直近の委員会では、あるべき姿を求めて何かを行うことで国民に医療をきちんと提供できなくなることは避けなければならないと。同じ方向を向いて議論をする流れになりました。もともと医師が一般の労働者と同じ法律の下に置かれていることを、医師自身が知らなくて「とんでもない」という反応になっているのではないかと思います。

委員会の中で医師は一般の労働者と違う働き方ができることを決められることになっていますし、医師の働き方に関する厚生労働省の通知は昭和20年代のものが多く、実態にそぐわなくなっているので、働き方改革は全てを見直す良い機会だと思っています。勤務医の健康をどれだけしっかりと守る仕組みを作っていくか。労働時間がきちんと管理されず、36協定も結ばれていない医療現場がたくさんあります。こうした問題に対応しながら国民にきちんと医療を提供する仕組みを作り、医師の健康を守るために勤務時間を減らした上で、一般労働者と違う勤務時間の設定ができるように厚労省の通知を直していくかを議論したいと思います。


医師を2交代制にしたら2次救急と産科は崩壊する

-議論が柔軟に進んでいることは意義があると思います。

猪口 われわれの若いころは、当直をやって手術をして、その翌日も当直をやって全然寝ていないというのが当たり前の姿でした。では、今はそうなっていないかといえば、多くの救急医療機関はそうなっています。もし夜勤を時間外労働に扱って、看護師のように2交代にしたらどうなるか。おそらく日本中の2次救急や産科の現場は本当に崩壊すると思います。崩壊を防ぐために、どこまできちんとした議論ができるか。労基署が多くの病院にどんどん入って医師の勤務時間について「けしからん!」と指摘した結果、救急を廃止する病院も出ました。救急に対する姿勢まで変えさせてしまう問題なので、現実を見ながらの法的整備に、どこで整合性を取るかが大切であると認識しています。

後藤 専門医制度で一番問題になるのは内科の専門医だと思っています。卒業して大学病院に就職すると臓器別の専門医になってしまい、10年ぐらい経つと完全に臓器別のメンタリティーになっていきます。患者さんに対して「私は消化器専門なので肺は診られません」といったりするのですが、医療安全の観点からも問題です。いろいろな臓器をトータルに診られる専門医をたくさん育成していく必要があると考えています。少なくとも今の専門医制度は、学生のニーズに合っていない気がします。

働き方改革について、病院長の立場ではなく麻酔科の立場で申し上げます。この10年は麻酔科の医局の入局者は、5~7割が女性ですが、長時間労働が続くと、あるとき人が変わったように職場を離れていく現象がたびたび起きていました。最近は男性医師にも同じような現象が見られます。そこで、私たちは5年前から学会に目をつぶってもらって、麻酔専門の看護師育成を始めました。まだ微々たる進捗ですが、ここにきて働き方改革がテーマになって、本当によかったなと思っています。


仏で週35時間労働にしたら全土で救急部門が止まった

松田 働き方改革はどこの国でも共通した悩みです。私はフランスに留学していましたが、フランスでは2000年代はじめに、週35時間労働制が医師を含む全ての労働者に適用されました。その結果、フランス全国の病院で救急部門が止まってしまうという非常に深刻な事態が発生したのです。その後、週39時間労働へと規制が緩やかになりました。医療の労働時間は提供側では決められません。相手があってのことなので、あまり高い規制を医療に求めると、問題が起きてしまうと思います。しかし一方で、労働時間が長いと医師のメンタルに問題が発生してしまうので、労働時間の管理も必要だと思います。

私は産業医科大学病院の副院長を務めていますが、うちの医師たちにこれ以上は働かせられないなと思っています。本当にかわいそうです。これ以上、何を効率化しろというのか?そこに答えはありませんが、一生懸命働くモチベーションは何かといえば、やりがいです。

やりがいを壊してしまうのは、患者さんからの不用意な暴言だったり、経営側からの不適切なコメントだったりします。医師がやりがいを持てる形で労働時間の管理を柔軟に取り組んでいかなければならないと思います。

その上で考えなければならないのは、患者さんのアクセスを視野に入れて機能を集約することです。それから後藤先生が指摘したように、医師でなくてもできる仕事を看護師やリハ職に任せる体制に移行すること。さらに国民に対して医療の適切な使い方を教育しないと、医師がやりがいを失って、残された医師がさらにきつくなることを考えなければなりません。

-労働時間は提供側が決められませんね。古川先生、お願いします。

古川 優れた専門医を作ることが専門医制度の目的ですが、症例が足りません。専門医に地域の医療の充足を求めることには無理があります。それから今の臨床医制度は、廃止を含めて抜本的に見直すべきだと思います。医師の仕事を40年やるとして、20年目になった時に「臨床医制度は何だったのか?意味があるのか?」と考えると思います。全科目を研修するはずがないのですから。

働き方改革については、労働時間の上限を上のほうに設けて、その代わり報酬を付けて待遇面でカバーするシステムにしていくことを考えています。それから深夜の看取りを看護師でもできるようにするなど、医師でなくでもできる仕事を他の職種に任せることも必要です。さらに、大学病院や基幹病院の勤務医は多くの学会に所属していますが、こんなに多くの学会に出席せずに、年間にいくつかの学会に出ればよいのではないでしょうか。働き方改革の中で考え直す必要があると思います。

-ありがとうございました。


【大学病院の在り方】
大学病院の病床転換は困難 カベは教授と医師の価値観
横浜市立大学附属市民総合医療センター 病院長 後藤 隆久 氏

横浜市には400床以上の急性期病院が16施設あり、患者さんを取り合っているレッドオーシャンです。2025年には市内の急性期病床が3000床も過剰になって、回復期病床は3000床不足すると予想されています。私は病院長として、いつまでレッドオーシャンにいるのか、ブルーオーシャンに行きたいと思い、まず病床転換が可能かを検討しました。

そこで、まず大学病院はどうして駄目な急性期病院なのかを考えました。この問題を考える切り口の1つが大学病院医師のインセンティブで、それは「医師同士の間ですごく認められたい」ということです。困難な症例に対する診療実績を重ね、論文を発表して、学会での地位を上げていくことにインセンティブがあります。従って、急性期のままなのです。

それから、自分が担当する患者さんの経過を自分でフォローする傾向があるため、在院日数が長くなってしまいますし、同じ外来患者さんを5年も10年も診ているので、外来患者数も多くなってしまうのです。一方、医学部教授のインセンティブは領土問題に似ていて、自分の診療科の病床が1床でも減ろうものなら、目くじらを立ててきます。臨床部長面談で「新患を集められなければ、在院日数を延ばしてでも病床数を減らさない」と平気で発言する教授もたくさんいます。

こうした現状から、大学病院の病床転換は困難です。地域包括ケア病床への転換を進めている大学病院もあるようですが、回復期や慢性期への転換は難しいと思います。文部科学省の補助金の審査を受けたときに、審査委員に「何のノウハウもないのに、大学病院的な手厚い人員配置で回復期・慢性期病床の経営ができるのか?」と厳しくいわれました。

確かにノウハウがないので、そうであれば地域での急性期病院としての在り方を医学部教員に理解してもらわないと、やっていけなくなります。そこで私は2016年に病院長に就任してから、最重要課題として、頼まれた救急患者は必ず診ることにしました。「大学病院で診るべき患者ではない」といって門前払いをすれば、本当にわれわれが診るべき患者さんも送ってもらえなくなります。

今後も、大学病院は急性期病院であり続けざるを得ないのではないかと思います。<要旨>

(取材 ● 小野貴史 / 医療タイムス No.2335)

 

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