現状の中医協での議論から見えて来たもの(2)
「働き方改革」とリンクした診療報酬の新機軸とは?
2018-01-10
2018年のW改定は「風雲急を告げる」大改革の予兆

11月中旬から師走にかけて中医協での診療報酬改定に係る議論が活発化してきた。2018年の診療報酬・介護報酬の同時改定はここ1~2カ月が勝負で、「風雲急を告げる」ように制度づくりが慌ただしく進められることになりそうだが、12月15日には政府内での調整が決着。社会保障3報酬全体で800億円増、診療報酬本体部分は+0.55%、薬価部分は▼1.45%、全体では▼0.90%のマイナス改定となった。介護報酬は+0.54%、障害福祉は+0.47%で何れも引き上げられることに決定した。

遡る12月13日に中医協から、「平成30年度の診療報酬改定の基本方針」(以下、基本方針)と一号側(支払い側)と二号側(診療側)委員の双方から、同「基本的考え方」が示されたので、最初にそれらに関して紹介したい。

支払い側が示した考え方は4ページにも及んでいるのだが、全体の表現が抽象的。内容が拡散し、何が言いたいのか良く分からないのが特徴。例えば、前半部分で医療経済実態調査の内容を踏まえ「過去5年間を見ても国公立病院以外は概ね堅調」であることから、「平成30年度改定において診療報酬改定はマイナス改定にすべき」と断言しているのだが、後半では、同調査の結果等から「医療機関等は総じて経営悪化になったことが示された」と相矛盾する内容が書かれている。一方、「薬価・特定保険医療材料改定等による引き下げ分は診療報酬本体に充当せず、確実に国民に還元する必要がある」と国民に対する配慮も欠かさない。その一方で、全体を通じて、「アベノミクスの推進」に係る記述が頻繁に登場するのだが、これは現内閣の意向への「忖度」なのだろうか。

一方、アベノミクスへの言及は一切なく、患者中心主義、現場視点を尊重して、「世界に誇るべき国民皆保険を持続可能にするためにも、今回、薬価改定財源は診療報酬本体に充て、診療報酬改定はプラス改定とするべき」ことを強調。1ページに満たないものの簡潔かつ的確に基本的考え方を示した診療側委員の内容の方が、遥かに説得力がある。

要するに、支払い側の主張は八方美人的で、何を一番強調したいのかが分かり難いのだ。ただ、支払い側の基本的考え方で見るべき部分があるとすれば、「社会保障の充実により国民不安を解消する提案」として、「被用者保険の保険料率を協会けんぽの水準に合せること」等、各医療保険の格差解消に言及している点。特に「国家公務員共済組合の現在、8.3%の保険料率を、地方公務員の9.94%に合せることを考えるべき」とまで踏み込んでいることに注目したい。昔から議論されてきたが、バラバラで運営されてきた各種組合健保、大企業等の健保、中小企業中心の協会けんぽ、国保等を一元化し、格差を解消するのには大賛成である。何とか支払い側のリーダーシップにより、早急な実現に導いて欲しいと思う。もう一つ前回でも書いたが、最後に「オンラインでの遠隔診療」に関する記述がある。支払い側が個別の診療報酬項目に言及しているのは、これだけであることを考えると、オンライン診療の診療報酬評価が2018年度に、導入される可能性は高いのではないだろうか。


リハビリ専門職の時短促進 専従・常勤配置の要件緩和

前述・基本方針では改定に当たっての基本認識として、「人生100年時代を見据えた社会の実現」「地域包括ケアシステムの構築」「制度の安定性・持続可能性の確保と医療・介護現場の新たな働き方の推進」が前提として示されている。

それを受けて4つの「改定の基本的視点と具体的方向性」(図表1)が提示されているのだが、この中で注目すべきは(3)医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進。(1)(2)(4)に関しては、従来の国の考え方を踏襲し、それを補強したものであり新味には乏しい。今回は中医協の議論の内容等も踏まえながら、(3)に示された「働き方改革の推進」とリンクした診療報酬改定の新機軸について考えてみたい。

(図表1)


最初に、12月13日の中医協「個別事項・その他の論点7」で示されたデータを紹介する。まず(図表2)で1991年以降、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の免許取得者が急増傾向であると同時に、女性の割合が増加傾向で推移し、PTは約4割だがOT・STは各々、約6割、約8割と女性が多数を占めていることが強調されている。

(図表2)


また、(図表3・4)ではリハビリに係る診療報酬項目には、リハビリ専門職の専従・常勤配置等が施設基準の要件となる項目の多いことが指摘されている。個別項目の中には、医療従事者の専従を要件としている一方で、(1)チームのうち1人が専従であれば可(2)担当する患者数によって専任でも可(3)リハビリに関して当該業務を実施していない時間帯には他業務との兼務が可能-としている項目も散見される。実際に医療資源の少ない特定地域では、例外的に医師、看護師等の人員配置、専従要件、夜勤要件、入院基本料の算定等で、要件緩和が行なわれている前例も多いことが分かる。こうした試みが既に存在することを前提に、2018年度の改定では、「リハビリ専門職の常勤要件の取り扱い」を緩和して、時短勤務を始め複数の非常勤従事者を組み合わせて常勤換算する方向性へと改正されそうだ。同時にリハビリ職だけでなく他の専門職も同様に、常勤配置や専従要件に対してより弾力的な運用を拡大し、家族の育児や介護等と両立出来る「働き方」を推し進めていく可能性が高い。

(図表3)


(図表4)


2018年に診療報酬とリンクする「公認心理師」の国家資格化

ここで、なぜ「働き方改革」にリハビリ専門職が、大きくクローズアップされたのかを考えてみたい。リハビリ専門職は女性の免許取得者が増えているものの、それだけが理由ではない。前出(図表2)で2015年から2016年の1年間で、PTの数は約9万8千人から10万人近くに増加しているが、PT、OT、STを合計すると最近は毎年、1万人近い国家試験合格者が増えている。その大きな理由は国が近年、養成校を無計画に新設したことにより、定員が増え過ぎたことに尽きる。

老舗のリハビリ養成校・校長は筆者の取材に「人口が年々、減少し、患者も減少して病院のパイが縮小してくことは間違いないのに、リハ専門職は増える一方で、地域によっては需給バランスが逆転しつつある。2040年頃には供給過剰になり、このままではPT、OT、STは2人に1人しか就職先がない時代が到来する」と予測する。更に「少子化の時代にも係らず、リハ専門職は新卒の経験が乏しい若手ばかりが増え続け、経験豊富な中堅やベテランの割合が低下する事態が近い将来、必ず起こり得るし、その予兆は出てきている。PT、OTに関しては、現在でも多くの病院が大量の新卒を即戦力で活用せざるを得ない環境にあり、リハビリ現場における“質の劣化”が指摘され始めてもいる」と付け加える。現段階からリハビリ職の受け皿づくりを進めなければならない状況から、厚生労働省はPT、OT、ST等の時短勤務促進、育児・介護休業の推進等、多様な「働き方」を可能にする診療報酬誘導が必要と考えているのだろう。時短勤務等を促進することにより、リハ専門職の受け皿拡大に繋がることが期待される。介護報酬改定でもPT、OT等の手厚い配置等を重点評価する配置促進策が検討されているが、厚生労働省にはリハ職の介護分野での受け皿拡大を目指しているのだと考える。

もう一つ、中医協の資料の中に「公認心理師」に係る言及があるのに注目したい。精神科系医療機関以外では馴染みのない職種と思うが、従来、医療機関等で勤務する臨床心理技術者・臨床心理士は国家資格ではなく、国家資格である精神保健福祉士とは区別されてきた。厚生労働省は、2018年4月から診療報酬上での心理職の扱いを「公認心理師」に統一することを目指し、2018年度には「公認心理師」の国家試験を実施する予定だ。

そのため、最初の国家試験が行なわれる2018年度に関しては、「従来の離床心理技術者に該当する者を公認心理師とみなす」と共に、国家試験実施後の2019年3月末までは、「医療機関で従事していた臨床心理技術者と、4月以降新たに臨床心理技術者として従事する者のうち公認心理師の受験資格を有する者を公認心理師とみなす」という“みなし規定”が導入される見通しだ。恐らく、現在の臨床心理士や精神保健福祉士が「公認心理師」の国家資格者として、医療現場で患者の支援を行っていくと想定される。

さて、「公認心理師」の言及が、中医協の「働き方改革」に係る診療報酬の文脈で唐突に提示されたことは非常に興味深い。今後、医療現場でピアサポート等、患者のメンタル面の支援の必要性が指摘されているが、「働き方改革」と連動して今後の診療報酬で、そうした流れが促進されていけば、精神科医療機関だけでなく一般医療機関においても「公認心理師」の活躍領域は拡がっていくことになる。

(医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 

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