移行すべきか留まるべきか医療法人の出資持分対策(下)
持分なし医療法人への移行
2018-01-05
<認定医療法人制度>
持分なしへの移行を促す新認定医療法人制度が開始

2014年の第6次医療法改正で、持分なしへの移行促進のため、3年間の期限付きで「認定医療法人」が制度化された。

同制度によって、相続人が持分を相続または遺贈によって取得した場合、その法人が移行計画の認定を受けていれば、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、さらに持分を放棄した場合、猶予税額が免除されることになった。出資者が持分を放棄し、他の出資者の持分が増加することで、贈与を受けたものとみなして他の出資者に贈与税が課される場合も同様である(図2)。

ただし、持分なしに移行した場合、法人側は特定医療法人あるいは社会医療法人レベルの要件を満たさないと贈与税が免除されないという非常に高いハードルがあった。そのため、持分なしへの移行は思うように進まなかった。実際、14年10月の認定医療法人制度の開始から、2016年9月までの2年間で認定件数は61件、そのうち持分なしへの移行は13件に留まっている。

そこで、2017年10月から認定医療法人が3年間延長されることになった。最大のポイントは、運営の適正要件を満たし、持分なし移行後6年間要件を維持していれば、法人側に贈与税を課さないというものだ。

主な運営の適正要件としては、(1)法人関係者に利益供与しないこと、(2)役員報酬について不当に高額にならないよう定めていること、(3)社会保険診療に係る収入が全体の80%以上であること-などが挙げられる。さらに制度延長に伴って役員数や役員の親族要件、医療計画の記載などの要件も大幅に緩和され、贈与税の非課税対象も拡大された。その背景には、診療所が持分なしへ移行しやすくしたいという意思があるのだろう。

持分なしへの移行について、診療所ではあまり検討されてこなかったように捉えている。2011年4月付の四病院団体協議会・日本医師会のアンケート調査によると、「持分なし」に移行する意向があるかという質問に、病院の61.7%、診療所の91.8%が「ない」と回答している。

2017年10月からの認定医療法人の延長期間は3年である。持分なしへの移行を検討されている医療法人にとっては、この3年間が大きなポイントと言えよう。


<持分なしへの移行の進め方>
持分なしは4つのステップで出資者への説明が最大の障壁

では、どのような医療法人が持分なしへ移行すれば経営的に有利になるのか。残念ながら、そのための明確な基準はない。そこで、持分なしへ移行した医療法人の事例から考えていく。

1つ目は、2代目が医師ではないため、持分なしへ移行し、同族経営からの脱却を初代理事長が決断した法人だ。持分なしへ移行し、理事構成の再編を行うとともに、理事長を外部より招聘し事業承継した事例である。

もう1つは、2代目が医師であり、いずれ理事長として診療所を引き継ぐ予定という法人。それまでに持分なしへ移行し、相続などの心配のない形でバトンタッチしたいという現理事長の思いがあり、持分なしへ移行したケースである。

どちらの事例についても共通しているのは、事業承継や相続を考えるタイミングで移行に踏み切っていることだ。今後の法人設計、地域で果たす役割、法人運営における理事会・社員総会の位置づけを明確にしながら、持分なしへの移行を検討することが大切だ。

ではどのように検討していけばいいか。まずは地域での役割、今後の法人設計を明確化したうえで、移行について検討する。ここで持分なしへの移行を決めたら、次のように進めていく。

(1)移行検討委員会を立ち上げる
検討メンバーは、社員(理事を含む)および顧問税理士、顧問弁護士などで構成すればよい。

(2)移行する法人形態の検討とシミュレーション
現在の医療法人は大きく6形態に分類され、どれを選択するかによって、クリアすべき課題や整える体制などが大きく異なる。一度持分なしへ移行すると、持分ありへは後戻りできないので、メリットとデメリットを検証したうえで、慎重な判断が必要だ(図3)

なお、シミュレーション結果によっては、持分なしへの移行をやめるという決断もあり得るため、専門家を交えてきちんと検討してもらいたい。

(3)出資者への説明と意向確認
(1)~(2)のステップを経たうえで、出資者への移行の説明と持分放棄の意向確認を行う。阻害要因でも触れたが、出資者に持分なしへの移行を説得するのは困難なことも予想され、これが最大の障壁となる可能性は高い。医療法人それぞれの事情によって異なるが、納得してもらうためには相手に配慮した説明を何度も行う必要があるだろう。

(4)社員総会への報告
持分なしへの移行についての検討内容を社員総会への報告し、実際に手続き実務へ入る。

出資者への説明など時間がかかる準備事項もあるが、新たな認定医療法人制度を活用する場合、(1)~(4)すべてを完了するまでに、3年という期限がある。各段階で行わなければならない準備項目をしっかりと洗い出し、スケジューリングして進めていくことが大切である。

持分なしへの移行は、経営安定化を図り、地域医療を守っていく為に非常に大きな意味を持つ。認定医療法人制度が延長するタイミングでもあり、持分あり医療法人の理事長(院長)は、ぜひこの機会に今後の法人設計を今一度検討し、そのなかで必要であれば考えてみてはどうだろうか。

(クリニックばんぶう 2017年10月)

 

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