移行すべきか留まるべきか医療法人の出資持分対策(上)
持分なし医療法人への移行
2018-01-05
非営利性の徹底や経営の透明性および継続性の確保の観点から出資持分なし医療法人への移行が推進されている。診療所はどう対応すべきか、そのポイントを解説する。

<持分ありとなしの違い>
最大の違いは残余財産の分配と持分の払戻請求権の有無

2007年の第5次医療法改正によって、2007年4月以降、医療法人は出資持分なし(以下、持分なし)の設立しか認められなくなった。ただし、従来の出資持分あり医療法人については、財産権を保全された「経過措置型医療法人」として、「当分の間」その存続が認められている。医療法人の数は2016年の段階で5万1,958、その大半は一人医師医療法人。つまり小規模な診療所だ。

一人医師医療法人の設立は、1985年の第1次医療法改正で解禁された。当時新設された法人は約30年を迎えており、事業承継を考える時期に差しかかっている法人も少なくない。相続税も関連してくることから、事業承継を考えるにあたっても、持分なしへの移行は重要なポイントになる。

後述するが、2014年の改正医療法では、持分なしへの移行を促進するために、3年間の期限つきで「認定医療法人」が制度化された。それだけに、持分ありの継続か、持分なしへの移行か、悩んでいる経営者は多いだろう。そこで本稿では、メリットやデメリットを考えながら、医療法人の持分なしへの移行について検討する。

まず出資持分ありと出資持分なしの違いを整理する。最大の違いは、解散時の残余財産の分配と出資持分の払戻請求権の有無である。医療法人では株式会社が株主に対して利益の一部を還元するような、剰余金の配当が禁止されている。そのため、利益が蓄積されることによって出資持分の価額は年々上昇していく。その結果、相続税評価額が高額になり、相続税負担が大きくなる。また、一部社員が突然退社して持分の払い戻し請求を行われると、高額な支払いが発生する。いずれも医療法人の経営を不安定にするものであり、医業の継続性の確保を脅かすものになる。

そもそも医療法人制度の趣旨は、「医療事業の経営主体を法人化することにより、医業の永続性を確保するとともに、資金の集積を容易にし、医業経営の非営利性を損なうことなく、医療の安定的普及を図る」ことである。第5次医療法改正以降、▽非営利性の徹底、▽公益性の確立、▽効率性の向上、▽透明性の確保、▽安定した医療経営の実現-の観点から、社会医療法人制度の創設や内部管理体制の明確化など、さまざまな医療法人制度改革が行われているが、持分なしへの移行が推進される背景には、医療機関の経営の継続性を確保することで、地域医療を守るという観点も含まれている。


<持分なしの利点と阻害要因>
贈与税の課税と同族意識がボトルネックになっている

医療法人が持分なしに移行する最大のメリットは、出資持分の払戻請求を受けなくなることである。これは、医療法人が非営利性を徹底しながら、安定的かつ継続的な医療提供を行ううえで重要なポイントだ。しかし、2016年3月末の段階で全国の医療法人のうち4万601件がいまだに持分ありを継続しており、第5次医療法改正以降、約10年間で、持分なしへ移行したのはわずか513法人に過ぎず、ほとんど進んでいないのが実態だ(図1)。

なぜ持分なしへの移行が進まないのか。1つ目の理由は、税制上の問題だ。持分なしに移行すると、一定の場合を除いて、医療法人に贈与税が課される。持分を放棄すると、出資者の親族などの相続税または贈与税の負担が不当に減少するため、医療法人を個人とみなして贈与税が課税されるからだ。

2つ目は「出資持分を手放したくない」と考える理事長や出資者の存在だ。医療法人を設立し大きくしてきた創業者のなかには、同族経営を維持したいと考える人が少なくなく、これがボトルネックになっているケースは多い。そのほか、▽出資者が不明である、▽出資者への説得が困難である、▽手続きが煩雑なために、どこから手をつけていいのかわからない-といったことも障壁になっているようだ。

2代目の院長は持分なしへ移行し、理事会を機能させていきたいと考えていたものの、現理事長(初代院長)は同族経営を維持したいために絶対反対。親子の激しい対立で移行できずにいる医療法人から相談を受けたこともある。感情的な問題も含めて、さまざまな阻害要件があるが、持分なしへの移行は今後の法人の行く末を大きく左右するものである。それだけに今後の法人設計をきちんとしたうえで移行の判断を行い、準備に充分な時間をかけて進めていくことが大切である。

(下)につづく

 

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