特集 「看護師不足を少しでも解消したい」EPA看護師を採用する意味
現場発 外国人人材の活用
2019-06-12
2008年より経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師の受け入れが始まった。筆者が勤務する公益財団法人ときわ会常磐病院(福島県いわき市)でも、2015年8月よりEPAベトナム人看護師の受け入れを開始。現在、看護師5人、候補者1人が勤務し、この8月には新たに3人が入職予定だ。同院がベトナム人看護師を支援する中で得た利点や課題を紹介し、外国人人材とどう協働していくか考えたい。


就職難のベトナム人看護師

来日前、母国で大学や専門学校を卒業後、看護師として働いていた彼ら。中には結婚していたり、子供を残して来日した人もいる。どうして日本で看護師になろうと思ったのか。

「透析の機械とか、MRIとか、日本の医療機器は近代的。優れた医療技術を学びたい」「ベトナムは最近、急速に高齢化が進んでいる。あと10年経てば、日本みたいにお年寄りが多くなる。元々、訪問看護部門がある職場で働いていたが、制度が整備されている日本で働いてみたかった」

医療技術や社会保障制度に加え、ベトナム人看護師特有の就職事情も関係がありそうだ。

「ベトナムで人気のあるハノイやホーチミンの大病院は、手術などの医療技術も高く、給与も田舎の2倍、3倍と高い。しかし、就職するには(病院に)知り合いがいるか、お金を払わなければならないから、就職先が少ない」

「私がEPAに参加したのは家族のためにお金を稼ぐことと、外国で働いて技術と経験を積むため」。生後11カ月の子どもを両親に預けて来日した看護師のルオン・ティ・ハインさん(29)は話す。


受入れ病院の思惑と実態

2011年に長崎大学の平野裕子教授ら研究グループが全国2,000の医療機関を対象に行った調査によると、「EPA制度に基づく外国人看護師をぜひ/できれば受入れてみたい」と回答した病院に対し、その理由を尋ねると「看護師不足を少しでも解消したいから」が65%であった。

だが、受入れを希望する施設の思惑と現行の制度には、乖離がある。この制度のポイントは「看護師国家資格取得を目指す」こと。受入れ施設は国試合格に向けた研修を実施する必要があるが、研修費用は公費および施設負担。

この点で、渡航手続きの手数料や、語学研修費用を自己負担する技能実習制度や海外留学と大きく異なる。また雇用契約に基づき、候補者は期間中であっても日本人と同等の給与や社会保障が適用される。

合格し晴れて看護師になったとしても、研修先の病院への就職義務はなく、帰国も転職も自由。つまり、EPA看護師は制度上、労働力不足を補てんする安価な労働力にはなり得ない。


求人情報より強いフェイスブック

制度上だけではなくEPA看護師/候補者自身も、各病院の対応をシビアに評価する。

「合格までは、働く時間より学習時間を確保してくれるか、学習指導や生活支援体制がしっかりしているかが重要。友だちの病院は、試験のギリギリまで働いたり、夜勤があったり、生活支援者はいても教えてくれる人がいなかったりする」。候補者のファム・ティ・トゥエットさんはフェイスブックを通じ、情報交換を行う。

内容は、日本語の勉強方法やお薦めの問題集、どの模試を受験したかなど多様だ。当然、就労状況や居住環境なども筒抜けだ。現に当院では、EPA看護師専用寮を病院近くに開設した年、応募が急増した。その背景に、先輩の口コミやフェイスブック効果があったことは想像に難くない。


制度と転職マーケットのはざまで

大手人材紹介会社で看護師の転職を斡旋する担当者は「制度開始から間もないのでベトナム人の転職活動の実績はまだないが、すでにインドネシア人のEPA看護師が転職をしている。今、働いている病院と同じ圏域で、インドネシア人の先輩がいて、お祈りする環境が整うなどイスラム教への理解があり、家族の来日を許可する病院に人気が集まっている」と話す。

地元志向の日本人看護師と異なり、国を越えて働く外国人看護師は、ニーズさえ合えば、全国各地の病院が転職先の候補になる。だからこそ、なぜEPA看護師を採用したいのか、彼らのニーズを踏まえた自施設のセールスポイントは何か。受入れ施設は問い続ける必要がある。

(文:公益財団法人ときわ会常磐病院EPA事業看護師受け入れ推進室 看護師 園田友紀/医療タイムス)

 

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