特集 介護職こそケアの質を決める!
「助手さん」と呼ばないで
2019-06-05
病院内における介護職の存在感が高まっている。背景としては入院患者の高齢化、ケアの重要性、ワークシフティング、人材不足などさまざまな要因が考えられるが、実際にはいまだ「看護助手」の位置づけから脱却できない病院が少なくない。そこで本企画では、病院における介護職のマネジメントに焦点を当て、先進事例も取り上げつつ考察する。


■序論

介護職の位置づけを明確化し、病棟でのケアの質向上をめざそう

今や慢性期はもちろん、回復期、急性期の病棟でも、介護職が活躍する光景を目にすることができる。主訴にさえ対応すれば十分だったのは過去の話。複数疾患を抱え、かつ自立困難な高齢者が多数を占めるなかで、介護職の重要性が増すのは当然と言える。


多業界入り乱れて介護人材争奪を展開

介護職の人材難が続いている。有効求人倍率は全職種で1%を少し上回っているレベルであるのに対し、介護分野は3%を超している(図)。特別養護老人ホームを見ても、建物を建てることはできても、なかで働くスタッフが集まらないためにフルオープンできないという状況が生まれている。


また、近年の景気の良さから他業種でも人材確保の動きが盛んで、特にパートタイマーは業種入り乱れての人材獲得合戦が起きている。ある医療機関では、5km先に大型量販店が出店、パートの介護職がごっそり引き抜かれる憂き目にあった。市街地内の病院も同様で、ある院長は「ライバルはコンビニエンスストア」と危機感を隠さない。

また、病院に焦点を絞ると、やはり介護施設は強力なライバルだ。もともと介護職にとっては「ホームグラウンド」で、何より自分たちが業務の中心に居座ることになる。それでなくても介護処遇改善加算が介護報酬のなかに盛り込まれており、「薄給に泣く介護職」という絵柄は過去のものになりつつある。

一方、病院を取り巻く人材採用事情も変わりつつある。入院料が従来の「看護師配置ありき」から、「看護師配置+実績評価」に移行していることを背景に、看護師が余り始めているのだ。ある急性期病院は、もともと自法人で看護学校を運営していることもあるが、看護師採用に悩まされることがなくなったという。事務長はこう言い切る。

「当院は7対1体制を維持しているし、必要に応じて過配もします。ですから正直に言うと、介護職を無理に雇用しなくても、看護師で病棟業務は賄えてしまうのです」

このように、病院にとって介護職は、一見、手の届きにくい存在になりつつあるようだが、右に挙げた急性期病院はやはり例外と考えるべきで、とりわけ、地域医療構想でいうところの「回復期」「慢性期」の病院にとって、介護職は不可欠な人材であることに変わりはない。


業務を明確化して病院内での位置づけ確立を

ただ、「介護人材待望」が謳われるわりに、病院の受け入れ体制を見ると、少々、心もとない。

まず、医療専門職中心の病院のなかで、介護職はどうしても1ランク下に見られがちだ。介護福祉士はともかく、ヘルパーに至っては「無資格者」というまなざしさえ向けられる。

その姿勢を象徴するのが「助手」という呼び名だ。実際、介護福祉士が看護事務に従事していたり、医療材料・器具の運搬、メッセンジャー役を務めたりしている病院は少なくない。「介護をしたいと思って入職したのに雑用に追われ、患者さんのそばに行くことができない」という不満は、あちこちで聞かれる。これではモチベーションアップにも限りがある。

迎え入れるなら、せめてどんな働きを期待しているか、介護職自身の望む業務に就けるのかは示すべきだろう。


「入院医療=高齢者医療」業務の比重はますます高く

そもそも、介護というサービス自体、病院においてきわめて重要な業務になっている。厚生労働省の「2014年患者調査」によると、65歳以上の割合は71・1%。主疾患以外にもさまざまな疾患を持っていると考えられるし、短期間でも「寝たきり」になることで、廃用症候群の懸念も生まれる。軽い認知症症状の高齢者も少なくないし、一時的なせん妄を起こすケースも十分想定される。

診療報酬もその必要性を見越して、一般病棟の入院料を算定する際の要件の1つ「重症度、医療・看護必要度」に患者状況を評価するB項目を設けている。2016年度改定時に「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」の項目が加えられた際、「病棟の現状を反映してくれた」との声が現場側から上がったことは記憶に新しいが、それだけ介護的な業務が増えていることを裏づけたとも言える。

つまり、今や「入院医療=高齢者医療」と言っても過言ではなく、それにふさわしい体制を組む必要がある。そして、「介護」はそのなかで大きな比重を占める課題と言える。

その介護を、看護師にすべて委ねるべきかどうか。先述の病院のように看護師の採用ルートを確立しているならともかく、そうでないならやはり、介護職を上手に使うことも考え合わせたい。看護と介護の業務は重なる部分が多いが、医療のエキスパートである看護師を投入しなくても対応できるケアはたくさんあるはずだ。

介護職を適切に配置することで、看護師の負担を減らすことはもちろん、ケアの向上につながる期待が膨らむし、病院経営に資する面もあるはずだ。


■解説

介護職の働き方改革の前に病院が手をつけるべきこと
メディテイメント株式会社代表取締役 杉浦鉄平氏

介護職の採用・定着は今や「看護職より難しい」との声が聞かれる。そこで医療現場ではさまざまな取り組みを進めているが、ケアミックス病院の看護部長を務めた経歴を持ち、病棟現場を中心としたコンサルタントとして活躍する杉浦鉄平・メディテイメント株式会社代表取締役は、「肝心なことに手がつけられていない」と指摘する。


Q.介護職の確保が難しいという声が病院の間から挙がっています。どこから着手すべきでしょうか。

介護職の定着やモチベーションアップは「マネジメント」の観点から議論されることが多いですが、私は実は、それ以前の問題が解決されていないと考えています。

介護職も他の医療職と同じく、自分の身を削って患者さんや利用者さんに尽くす仕事ですが、そのわりに「欲求」が満たされていない印象があります。

マズローの欲求5段階説で考えてみましょう。まず、「生理的欲求」はすべての前提になります。電車のなかでお腹がグルグル鳴っているときに、他人に貢献してくださいと言われてもなかなか難しい。まずはトイレに行くことが必要です。そういう状況に陥っている人たちに何か頼むというわけにはいきません。

次に、「安全の欲求」ですが、病院の介護職は、他の職種に比べて特に満たされていない印象を受けます。その状態で身を削って他人に尽くすのはかなりストレスになります。

続く「所属と愛の欲求」は、たいてい「看護師の下で・・・」となってしまいます。そこに安住する人もいるでしょうけれど、モチベーションを高く持って入ってきた介護職には辛いでしょう。

看護師はまだ待遇面でも「承認欲求」を満たすだけのものは得ている場合が多いでしょうし、何より医療にかかわることで得られる「自己実現欲求」を満たす機会は多いと思いますが、介護職はそこまで進んでいない気がします。

患者さんは問題を抱えている人たちで、仕事自体が苦痛や痛みなどの「問題探し」になるので、それを解決する仕事に従事すること自体がかなり身を削ることになります。これが積み重なっていくと、自分を愛せなくなる。実は、これは患者さんにも伝播します。疲弊した看護師、介護職を見ていると、ナースコールを押すのに遠慮が出てきます。この循環を変えないといけません。「心の健康があって、はじめて患者さんに貢献できる」ということを知っていただきたいです。


Q.その生理的欲求は前提として、安全の欲求を満たすにはどうしたらいいのでしょうか。

マインドセットの時間がとても大事になります。私はある病院で管理職対象の研修を行っているのですが、毎回、まず始めるのはお互いに承認する時間をつくることです。つまり褒め合うわけです。管理職も、他人から褒められる機会はあまりないですから、そうした時間が大事なのです。

なぜ褒め合うことができるかというと、そこが「安心して褒め合うことができる場」だからです。私は「安心・安全・ポジティブゾーン」と名づけていますが、この姿勢になることがとにかく重要です。

その反対が「危険・不安・ネガティブゾーン」です。病院にかぎらず一般企業でも見られる光景ですが、会議の場で「意見はないのか」「そんな考えしかできないのか」と。そのようにやっつけられてしまい、意見が出せなくなることはよくあります。「どうせ何か言っても・・・」と思ってしまう。

さらに言うと、そういう人たちは正解を求めてしまい、自分が求めている回答に達しないと、「いや、私が求めているのはそういうことではなくて・・・」と演説を始めたりする。そうすると、ミーティングなどとても望めません。

背景には「4つの不安」があります。「恥」をかく不安、「否定」される不安、「仲間はずれ」にされる不安、「辞め」させられる不安です(図2)。

この不安を取り除いてあげるのです。現場の皆さんは「患者さんに尽くしたい」と思ってアクセルを踏んではいるけれど、同時にこの4つのサイドブレーキがかかってしまっている。これを外すわけです。


Q.そうした不安を解消するために、マネジメント職は何をすべきですか。

一番まずいのは、「聞く姿勢」をつくる前に、力技で何とかしようとしてしまうことです。一番多いのは「患者さんのためなんだから」という殺し文句を使うこと。義務感、使命感を求めるのです。特に職責が上がると、そういう不安を持っている人たちについて「受け身だ」「指示待ちだ」「意見を言わない」という印象を持ちがちですが、「仕方がないから自分で解決してしまおう」となるわけです。これは間違いです。

まずマネジメントする側が「聞く姿勢」を持ち、示すことです。それによって自分が「承認」されていることを確かめてもらうのです。何を言っても「恥」にもならず、「否定」もされず、「仲間はずれ」にされず、「辞め」させられる心配はないことを知ってもらう。つまり不安を解消してあげることです。実際に取り組んでみると、最初のうちは、あまり前向きな意見は出てきません。しかし、そこでその意見を否定せず、「なるほど、そういう意見もあるね。その着眼点はおもしろい」と肯定してあげるのです。すると、それが呼び水となって、「こんな考えはどうですか」「私たちはこんなこともできます」といった意見が出てきます。

それが積み重なっていくうちに、何十番目かに本当に良い意見が出てきたとします。それは誰の成果でしょうか? その意見を言った人が特別に優れているのではなく、それまでさまざまな意見を出した皆の成果なのです。

私はこれを「積み石効果」と読んでいますが、不安・危険・ネガティブな場では絶対に起こりません。さらに言えば、安心・安全・ポジティブな場があってはじめて、ビジョンや戦略、ルール、文化・ムードが有効に作用するのです(図3)。


Q.では、そうした安心感が生まれると、実際の現場ではどのようなことが起こるのでしょうか。

病院ではしばしば、図4のような状態が見られます。心理的安全性が保たれるのは、それはそれで望ましいのですが、やはり責任も伴ったほうが組織運営上は好ましい。医師はしばしば病院経営に責任を感じないというか、関心がない人がいますし、事務職も職場の快適性が満たされればそれで満足してしまう傾向があります。

一方、介護も看護とほぼ同じ位置にいると思いますが、心理的安全性が伴わないなかで、患者さんと向き合う責任はあります。

これがもし、心理的安全性が高い状態で保たれ、責任も高かったらどうなるでしょうか。「○○、あなたが頼りよ、責任は上司である私が持つから、頑張って!」と言われたらどうでしょう。たいていは学習を始めて何とか成果を上げようとするでしょう。そこには、別に特別なマネジメント手法は存在しません。ただ「安心・安全・ポジティブ」を感じられる場があるだけなのです。


Q.実践するのは難しくありませんか。

簡単です。承認を与えるだけでいいのです。ただ「あなたがいると助かる」「職場の雰囲気が明るくなる」といったことで十分です。そこに「あなたは○○をしてくれた。だからすばらしい」といった根拠は必要ありません。むしろ根拠のない自信こそ行動の拠り所になります。人事考課は、行動や結果に対する承認のことですから、根拠のある承認と言えます。でも、それはもっと後に取り組むべき課題です。

特に介護職は、報酬の多い少ないにかかわらず動く人たちです。患者さんや利用者さんが心配だからと言って就業時間を過ぎても残る人たちが本当に多くいます。だからといって、そこで残業代を請求する人は少ないでしょう。


Q.それだけで現場は変わるでしょうか。

もちろん患者さんに貢献したいと思っても、そのための手段がわからなければ行動に移せませんから、その手段を伝える必要はあります。

それを伝える際は、やはり「研修の場」のような特殊な場をつくることをお勧めします。先ほどの「不安」の話も踏まえると、臨床の場でいきなり伝えるのは難しい。職場も同じです。「ここならしくじっても安心」という領域で学ぶほうがいいでしょうね。

そこでできるようになると、自ずと職場、臨床の場へと広がっていきます(図5)。現場で課題があっても自分たちで解決策を模索するようになります。繰り返しますが、介護職は本来、患者さんに貢献したいという気持ちの強い人たちです。それを上手に引き出してあげていただきたいです。


(フェーズ3 2019年4月号)

 

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