施設ホスピスから在宅ホスピスの時代に(上)
まだまだ足りない緩和ケア充実診療所
2019-05-16
「緩和ケア病棟入院料1」に直近1年間の努力目標を設定

2012年度診療報酬改定から「緩和ケア病棟入院料」に入院期間に応じた逓減制が導入されるようになり、国は緩和ケア病棟を「緩和ケアの提供と共に、外来や在宅への円滑な移行を支援する」施設として、明確に位置付けるようになった。終末期医療を担う施設ホスピスから在宅ホスピスへの転換だが、その流れは2018年度診療報酬改定でも、さらに色濃く打ち出されていた。

2018年度改定から「緩和ケア病棟入院料」は二段階に再編されたが、上位ランクの「緩和ケア病棟入院料1」に(選択要件ではあるが)直近1年間の①平均在棟日数30日未満・平均待機期間14日未満 ②在宅移行率15%以上-という高いハードルが課せられ、終末期医療の「施設から在宅」へのシフトが更に推し進められるようになった。下位ランクの「緩和ケア病棟入院料2」には同1のような努力目標は設定されてはいないが、改定前の「緩和ケア病棟入院料」と同様に61日以上の入院の場合、入院料が顕著に引き下げられる。

地方都市で、緩和ケア病棟を運営する某民間総合病院の院長は次のように指摘する。

「緩和ケア病棟における在棟日数の縮減や待機患者の解消は、国の目指す方向性として理解しているが、入院患者の多くは末期がんの方で、患者さんが在宅療養に移行してからの疼痛管理、例えばオピオイド系鎮痛薬の扱い等に熟練し、“看取り”にも実績のある在宅医(診療所)が少ないので、在宅に帰したくても帰せない現実がある。」

当該病院に緩和ケア病棟を導入したのは2000年代の初頭だが、当時は最長で5年位の入院期間が普通。がん末期の患者が1~2年間入院し、終末期まで緩和ケア病棟で緩和ケアを実施し、病院で亡くなるケースが一般的だった。しかし、前述のような政策誘導により緩和ケア病棟が、がん患者の“終の棲家”でなくなったことから、地域医療の事情により受け皿がないままに外来や在宅への移行を余儀なくされるケースも散見されるようになった。

前出の病院長が経営する病院では、「平均在棟日数30日未満」、「在宅移行率15%以上」のいずれを満たすことも現状では難しく、入院料2の算定に留まっている。当該病院の場合、直近1年間の平均在棟日数が「61日以上」であり、入院料2で最下位ランクの点数(ハ・3,300点)しか算定できず、院長は「緩和ケア病棟はこのままでは赤字経営で推移し、早い時期に平均在棟日数を“30日以内”に縮減しなければ、緩和ケア病棟の縮小や一時的な届出返上等も検討しなければならないだろう」と嘆息する。

1990年に制度化された緩和ケア病棟は、当初、がん診療連携拠点病院や、日本医療機能評価機構の「病院機能評価」認定を受けた病院しか認められず、届出施設数が増えなかった。その後、それ以外の医療機関でも「緩和ケア病棟入院料」や一般病床を対象にした、「緩和ケア診療加算」(後述)等の届出が可能になった。2010年以降から緩和ケア病棟は、徐々に増加の兆しが見え始めた時期もあるが、2016年以降は減少傾向にある。その理由としては、近年の緩和ケア病棟を取り巻く厳しい経営環境があると思われる。

国の医療費抑制策と伴走するように、施設ホスピスから在宅ホスピスへの流れが顕著に進むにつれて、ニーズは高いものの運営の難しさや経営の厳しさから、緩和ケア病棟の新規導入に「二の足を踏む」医療機関が増えてきたと考えられる。


がん患者・在宅移行の課題は緩和ケアに習熟した在宅医の不足

この他、2018年度報酬改定で緩和ケアに係る診療報酬の改正点では、これまで、「病院や有床診療所の一般病床に入院するがん・エイズに罹患した患者に対する緩和ケアチームの取り組み」を評価した「(有床診療所)緩和ケア診療加算」(1日につき390点)に対し、がん・エイズに加えて末期心不全の患者も対象に追加された。さらに、「緩和ケア診療加算」を算定するがん患者に、「緩和ケアチームに管理栄養士が参加し、栄養食事管理を実施した」場合の評価として「個別栄養食事管理加算」(70点)が新設された。加算+加算で460点の高評価だ。緩和ケア病棟だけでなく、一般病棟における充実した緩和ケアチーム医療が評価された形だ。「緩和ケア診療加算」における末期心不全患者への対象拡大は、厚生労働省が、がん・エイズ患者以外にも緩和ケアの充実が重要と捉えており、今後の中医協ではがん・エイズ以外の緩和ケアや終末期医療の報酬拡充についての議論が活発化していくと予想される。

さて、緩和ケア病棟を退棟後、在宅療養に移行する終末期患者のフォローに関し、近年、全国的に往診・訪問診療を実施する診療所が増加した一方で、在宅緩和ケア、看取り等に熟練した診療所が増えているとは言えないのは事実である。

2016年度診療報酬改定で新設された「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」は「機能強化型」在宅療養支援診療所・病院の届出が前提条件だ。それをクリアした上で、「過去1年間の緊急往診実績15件以上かつ在宅看取り実績20件以上」、「過去1年間の末期がん患者で鎮痛剤の経口投与では疼痛が改善しない場合に、オピオイド系鎮痛薬の患者自己注射を指導・実施した実績2件以上」、または「過去に同注射を5件以上実施した経験のある常勤医師が配置され、適切な方法でオピオイド系鎮痛薬を投与した実績が過去1年間で10件以上」。更に、「がん性疼痛緩和指導管理料の施設基準に定める緩和ケアの研修を修了した常勤医師の在籍」や「緩和ケア病棟または在宅での看取り実績が10件以上の医療機関で、3か月以上の勤務歴のある常勤医師の在籍」が主な施設基準となる。

「緊急往診・看取り」実績だけでなく、オピオイド系鎮痛剤投与や緩和ケア医療の実績、がん性疼痛緩和に熟練した常勤ドクターの配置等が、極めて厳格に規定されており、在宅緩和ケア充実診療所・病院加算のハードルは高い。例えば、2017年に公表された厚生労働省の「2016年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」では、「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」を届出する“機能強化型”在支診は約15.8%に留まっている。「機能強化型」在支診の届出は全国で3,000施設に満たないから、在宅緩和ケア充実診療所は500施設に届いていないと推定される。

都市部で充実診療所を運営する院長は「在宅専門クリニックが都市部で増えているが、その多くは居宅系介護施設の入居者等、医療依存度の低い高齢患者を対象にした若い在宅医で占められ、在宅がん患者の疼痛コントロールやオピオイド製剤の扱い等に熟練した医師は極めて少ない。緩和ケア病棟を退院した終末期がん患者、その他、ALS、パーキンソン病等の重篤な難病患者の“在宅での生活”を支えてくれる診療所が足りないのが問題」と指摘している。


次回に続く
(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)

 

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