介護老人保健施設の経営は、なぜ低空飛行するのか?(後半)
2018年度W改定の影響
2019-04-11
在宅復帰・在宅療養支援指標運用に伴い煩雑な事務作業が発生

2017年時点での介護老人保健施設(介護老健に略)の数は、全国で4,322施設、定員は37万2,679人に達している。前回では、2018年の診療報酬・介護報酬W改定に影響を受け、介護老健経営が低空飛行を余儀なくされていること。新たに導入された「在宅復帰・在宅療養支援指標」(同指標に略)の内容等について解説させて頂いた。

ここからは、そうした介護老健に係る大きな制度改正を受けて、介護老健の現場でどのような地殻変動が起きているのかをレポートした。ここで紹介するのは、主に2018年11月頃から2019年1月末頃の期間に筆者が取材し、判明した動きだ。

同指標の導入に関しては、現場での評判は良くない。その運用を巡っては、介護老健側の“怨嗟”の声が少なからず聞こえてくる。その理由としては、余りにも複雑かつ詳細であり、実務を担う事務方や介護現場のスタッフにとって、非常に煩雑な業務が発生するからだ。某介護老健施設長は、「当施設は“基本型”介護老健だが、要件にある10項目をポイント化し、その合計が毎月20ポイント以上になるように取り組んできたが、その指数の計算に手間と労力がかかる。実際に市町村の介護保険担当者に同指標の計算方法について訊ねても、担当者レベルでも十分に理解していないケースも散見された。最初の頃は、介護老健の現場で混乱を招き、市町村職員から県に問い合わせをし、県職員も熟知しておらず厚生労働省に訊くという“堂々巡り”も、当県では起こっていた」と振り返る。

確かに、筆者も初めて複雑怪奇な同指標が公表された時には、一体どのように合計指数の計算をするのか分からなかった。

また、前述のようにW改定の影響によりベッド稼働率低下と収益マイナスを招く経営環境の下で、介護老健の現場が荒れ始めた状況も、実際に指摘されている。


老健全体の質の底上げに繋がる「療養体制維持特別加算」新設

「介護老健の経営悪化により、水面下でオーナーの交替や“身売り”をする医療法人が現れている。M&Aの発生は病院本院との連携関係が脆弱な単独型・介護老健に多いように思われる。介護老健が長期療養型施設化して在宅復帰機能が果たせず、医療法人経営者が抱えておくメリットに乏しいと、判断したからだろう」と語るのは、都市部・某介護老健を運営する医療法人常務理事(事務長)だ。

実際にベッド稼働率の著しい低下により、医療機能が脆弱にも係らず、急性期病院に「営業」をかけて、経管・経鼻栄養やインスリン注射が頻回に必要な患者等の紹介を依頼したものの、医療依存度の高い高齢者への対応が十分に出来ないことから、“瞬く間”に病院へ送り返されてくるという事態も報告されている。

いわゆる、急性期病院の「下請け」に徹しようとする介護老健の動きであるが、このようなことを行っていると、地域の一般病院からの信頼は損なわれ、“評判”は地に落ちてしまうことになる。介護老健の場合は、治療行為の多くが基本診療費に「包括化」されているので、本来、実施可能な医療は大きく限定されるのが現状だ。前述のような医療依存度の高い高齢者へのケアは本来、「介護医療院」が担うべき役割だと思う。2018年度介護報酬改定ではマイナス改定を余儀なくされた施設が多くを占めたものの「排せつ支援加算」、「褥瘡マネジメント加算」、「低栄養リスク改善加算」等、ケアの質を評価する新設加算が、多数準備されてもいる。

日本慢性期医療協会(日慢協)が150施設を対象に2018年7月に実施した「平成30年度介護老人保健施設の運営状況に関するアンケート集計結果まとめ」では、新設の「かかりつけ医連携薬剤師調整加算」(125単位/日)は約42.9%の介護老健が、既に算定を実現していると報告されている。「質の高いケア」を評価する「療養体制維持特別加算」は、これまで「療養強化型」だけで評価されてきたが、2018年改定により「療養強化型」廃止に伴い、一般の介護老健でも評価されるようになった。「質の向上」という面からも、介護老健には是非、算定して頂きたい加算項目だ。高ランクの同加算IIを届出可能な介護老健が増えると、介護老健全体の「質の底上げ」にも繋がっていく。介護老健の活路としては、「ケアの質」向上に向けて尽力し、質向上に伴う各種加算を出来る限り算定し、地域で他の施設との差別化を図っていくことに他ならない。ちなみに、現状では同加算(I)(II)の併給が可能だ。


介護老健の活路を切り拓くデイケア・サービスの新機軸

このような介護報酬における対応に加えて、利用者へのサービスやアメニティ改善・充実も求められるのは言うまでもない。例えば、デイケアにおけるリクレーションのマンネリ化が指摘されて久しい。施設内の1ヵ所に集合し、大集団で実施される体操やゲーム、工作や書道、カラオケ等、どこもワンパターンの内容ばかりで、施設によっては利用者が退屈し、中断するケースも後を絶たないとの話も聴く。

筆者が2018年に取材した介護老人保健施設「ソルヴィラージュ」(堺市:入所150名、デイケア90名)は同じグループの介護老人福祉施設「ソルメゾン」との合同企画により、3年程前から「SUN SUNクラブ」というシニア向けの本格的なカルチャークラブを立ち上げた。デイケア利用者のニーズをヒアリングした上で、(1)陶芸クラブ(2)おしゃれクラブ(クラフト工芸)(3)うたのレッスン(4)タブレット教室(5)ソープカービング(石鹸を使った彫刻)(6)バレエストレッチ―の6つの教室を開設した。何れの教室も、各分野のプロを講師として招聘し、10人以下の小グループでマンツーマンにより指導する本格的なものだ。興味深いのは2018年4月の新築移転時に、これら教室を開催できる施設づくりを進めたこと。例えば、(3)うたのレッスンは職員がインストラクターを務める単純なカラオケではなく、レッスンプロが講師を務め腹式呼吸の練習から始める。

利用者に最も人気が高い(1)陶芸クラブは新築移転時に陶芸窯を導入し、利用者の作品の焼成まで行えるようにした。これは介護施設では前例のないことだ。

ソルヴィラージュは「SUN SUNクラブ」を展開してきたことで、現在、過去最高の206人というデイケア登録者数を確保している。従来型施設の発想にはない、このような新機軸こそが、厳しい経営環境下における介護老健の活路を、切り拓いていくことに繋がるのではないだろうか。

最後に前出・同指標で「70ポイント以上」が要求される「超強化型」介護老健は、前述の日慢協調査では約21.3%が届出しており、全国老健調査(2018年6月実施)でも約11.9%を占めると報告されている。このように、在宅復帰・在宅療養支援を強力に推し進めて来た介護老健も存在するのも歴然とした事実であり、機会があればこのような介護老健も今後、取材し、本稿でも紹介していきたいと考えている。

(医療ジャーナリスト:冨井淑夫)

 

twitter

facebook

ページトップへ戻る