薬局や薬剤師、患者を支援するシステムを手掛けるグッドサイクルシステム。
創業以来、常識にとらわれず、あるべき姿を実現するツールの開発に愚直に取り組んできました。
独立前の会社員時代から現在まで電子薬歴に携わる代表取締役 遠藤朝朗に、「GooCo」がヒットするまでの道のりを聞きました。
情熱注いだ“先確認”の電子薬歴システム開発
グッドサイクルシステムを起ち上げたのは今から15年前。 “先確認”の薬歴を作ってもらいたいという旧知の薬剤師から相談されたのが創業のきっかけでした。“先確認”とは、処方箋を渡す際薬の服用状況や副作用の有無などをヒアリングした上で薬を提供する薬剤師業務の流れのこと。医薬分業の本来の目的である薬剤師によるチェックという機能を果たしていくためには、業務フローを変える必要がありましたが、それまでのシステムは“後確認”に最適化されているシステムだけでした。
そこで遠藤は、それまで誰もやったことのなかった“先確認”を実現するツールの企画開発を始めます。とは言え、誰も先確認やったことがない時代。まず開発したのは、これまでの電子薬歴開発のノウハウを活かした「Tomorrow Pharmacy21」です。最初の転機が訪れたのは、2005年5月。大手調剤チェーン本社を訪れた時のことでした。
遠藤 「先方の担当者から『こんなの“先確認”じゃない』と一蹴されたんです。実は起業した当初の2005年の1月に『先確認のシステムを作ります』って伝えていたんです。先方がそのことをおぼえていて、『他のメーカーの電子薬歴は、1回見たら2度と見ないけど、遠藤さんは先確認を提案してくれたから』と先確認のコンセプトと可能性に共感してくれていたんですね。お互いに目標とするところが合致していることがわかってから距離が縮み、一緒に開発する関係が始まりました」
そして、完成したのが「薬局フロントシステムKY2」です。KY2とは、「Kono Yakkyoku-ni Kite Yokatta=この薬局に来て良かった」という服薬指導を通じて患者満足度を高めていきたいという狙いが込められてネーミングされました。
遠藤「KY2は、薬歴の画面をみながら患者さんとコミュニケーションできるシステムとして作りました。患者さんの多くは薬剤師がどんな役割を担っているかわからない。であれば、薬局や薬剤師がどんなことを提供できるのか、患者さんに、まるでメニューのように薬歴の画面を見せられればと考えたんです。
でも、システムが完成していざ現場に行ってみると、開発側の私たちも現場の薬剤師も使い方がわからず戸惑いました。薬剤師のあるべき姿にこだわったたばかりに、これまでの業務フローからかけ離れてしまっていたのです。そのため、最初に開発したものを全面的に見直し、新たに薬剤師の業務フローに沿った形にアップデートしたものをリリースしました。
当時から目指していたのは、薬剤師がしている業務を患者さんに知ってもらい、相談のきっかけをつくる、薬剤師は頼りになる存在なんだと伝えていけるようなシステム作りです。その設計の思想は『GooCo』にも引き継がれています。ちなみに、“先確認”は2014年の診療報酬改定で義務化されることになりました」
いち早く在宅訪問システムの開発に着手
薬局システム開発の専門家として薬局や薬剤師の業務の在り方を常に考え続けてきた遠藤。いち早く在宅訪問システムの潜在的な需要があることにも気がつきます。
そこで2008年、グッドサイクルシステムはデジタルペンというデバイスを使った在宅支援システム「すらすら」を発売します。「すらすら」は訪問先の現場で手書きした内容をそのまま電子化できるといったシステム。実際に利用した薬剤師からは、在宅だけでなく薬局でも使いたいと好評でしたが、薬歴を訪問先で確認するには紙で出力しなくてはならないといった手間もありました。
その課題をなんとかしたい。そう思っていた矢先の2010年4月に発売となったのがiPadでした。すぐに遠藤はiPadでのシステム開発に着手します。
今でこそ業務用アプリの大半がiPadという状況ですが、当時は、デバイスとして定着するかどうかわからない未知数のデバイス。それにも関わらずiPadで勝負をかけようと遠藤が決断できたのには理由がありました。
遠藤「薬剤師は診察室で座って患者を診る医師とは違って調剤室や投薬カウンター、待合室などを行ったり来たりする仕事です。だから、固定して使うことを想定したPCとは相性が悪いんです。
iPadならば、どこでも手軽に持ち歩きできます。しかも、従来PCの3分の1と価格も手頃。処理スピードも早くて、ウィンドウズ版のタブレットに比べセキュリティも安全でした。PCの電子薬歴を手掛けるなかで直面していた課題を、iPadであれば解消できると確信のようなものがありました」
遠藤 「最初はリモートデスクトップのように、PC画面をiPadで表示するようなイメージで活用することを考えましたが、操作性が悪く、iPadの良さを活かすことができませんでした。
その頃、PCのシステムといえば、ディスプレイの枠のなかに全てを詰め込むような設計をしていました。Yahooをはじめ、ほとんどのサイトが画面の枠内に収まるようなレイアウトで。でも、iPadのシステムはその発想で設計すると使い勝手が悪くなってしまうのです。
例えば、今、ネットショップのランディングページって長くなっていて、スクロールしてみるような作りになっていますよね。iPadもそれと同じでレイアウトが枠の中に収まる必要はなかったんです」
この経験でPCとiPadのシステム開発は違い発想の転換が必要だとわかったことが、後々の大きなアドバンテージとなりました。
遠藤 「デザインの方向性は決まっても、iOSアプリを作ったことがない。そのため、最初はブラウザ上で動くシステムを開発し、2011年1月に「すらすらver.2」としてリリースしました」
「すらすらver.2」は保険薬局業界初のiPad対応在宅アプリとして、高評価を得ます。
遠藤 「使い始めたユーザーから『在宅だけでなく、外来でも使いたい』との声が大きかったのと、私の方でもiOSのネイティブアプリだったら、もっとiPadの良さを活かしたアプリが作れるという確信がありましたので、iPadを活用した電子薬歴開発を決意しました」
しかし、社内にiOSの技術者はおらず、ノウハウは十分ではありませんでした。当時は、IT業界自体がPCシステムの開発が中心でiOSの技術者はまだまだ少なかった時代です。人材会社から紹介されたiOS技術者が、ゲーム開発経験のみでニッチもサッチもいかなかったこともありました。最終的には、それまで社内のエンジニアが、iOSをゼロから学んで、システムを作り上げました。
あきらめなかった、その先に・・・
こうして遂に2012年5月、本格的にiPadに対応した電子薬歴「GooCo」がお披露目となりました。以後、他社もiOS版アプリの電子薬歴をリリースしてきましたが、iOSの定期的なバージョンアップ対応に苦戦したのか、現状では、iOSアプリを電子薬歴のメイン端末として推奨しているベンダーは少なくなりました。
「GooCo」は発売から順調に導入件数を増やし、iPadに対応した電子薬歴としてのポジションを確立。グッドサイクルシステムの主力製品となるまでに成長しました。
お客さんの心を揺さぶる「GooCo」の価値
グッドサイクルシステムは、“先確認”をコンセプトとした「薬局フロントシステムKY2」、iPadに対応した「GooCo」などそれまでの業界の常識を変えるシステムを次々と世に送り出してきたグッドサイクルシステム。先進的なシステムを次々と生み出してきた秘訣や原動力は、何なのでしょうか。
遠藤 「薬歴は紙からPCへと管理方法が変わることで業務の省力化を実現しました。しかし、それでは単にこれまでの行為をシステムに置き換えたに過ぎず、他の電子薬歴とたいして変わりありません。
私たちは電子薬歴のシステムを導入してもらうことで、薬歴業務の効率化はもちろん、医薬品の適正使用に役立つ支援機能を使いやすく提供することで、患者さんや薬局経営に好影響をもたらすことを目的としています。また、ITシステムの運用レベルを底上げしたり、薬剤師の意義や役割を患者さんに理解したりできる、より高いレベルのシステム開発を目指してきました。
周囲を『ギャフン!』と驚かせるものをと創業の当初から言ってきましたが、それは今も変わりません。『そこまで考えてるのか!』とお客様に驚いてもらえることこそが何よりの喜びです」
さらに、遠藤は次のように続けます。
遠藤 「仮に、私が薬局の薬歴導入担当者だったとしましょう。てっとり早いのは、レセコンメーカーがオプションで売っている電子薬歴を導入することです。これなら上司に選定理由を問われることはほとんどないですし、負担も少ない。
そんななかで、わざわざ『GooCo』を選んでもらおうと思ったら『ちょっといいな!』という製品ではダメなんです。『この電子薬歴はすごい』、『稟議書を書いてでも、導入したい』と担当者の心を揺さぶるシステムでないと買ってもらえません。
『GooCo』のようなパッケージソフトは特性上、最大公約数的な設計を避けることができません。だったら、薬局からの要望に対して一段上の解決策を示したいんです。システムを作る上で、そのことは常に頭にあります。
それに『こういう解決策があったのか!』というのが、お客様の感動につながります。他の電子薬歴にないものが『GooCo』にはある。その価値を高めることはこれからも追求していきたいですね」