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コラム

電子薬歴システムに載せた指導箋が、ドロップアウトの改善に寄与することが分かりました

2013-09-01

2010年に製薬会社と弊社の協働で始まった「スピリーバプロジェクト」。COPD(=慢性閉塞性肺疾患)治療薬のドロップアウト防止が目的です。結果は、事前調査で65%(半年間)だったドロップアウト率が30%以上改善。決め手は分かりやすい指導箋を電子薬歴システムに載せたことにありました。キーパーソンの日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の加藤久幸マネージャーにお話を伺いました。

1日20本20年以上たばこを吸い続けた人の約2割がCOPDと呼ばれる慢性閉塞性肺疾患に罹るといわれています。そして、年間1万3千人くらいの人がこの病気で亡くなっています。弊社では、COPD治療薬として「スピリーバ」を製造・販売していますが、この種の薬は処方されたら一生服用し続けなければなりません。ただ、体調が良くなると途中で止めてしまいがちなのも事実で、弊社の独自調査によると、半年間で65%くらいの患者さんがドロップアウトしていました。

薬の服用を止めると調子が悪くなる。するとまた治療を再開する。こうしたドロップアウトを2度3度と繰り返すうちに、肺機能はどんどん落ちていってしまいます。このような現状を改善させる方策はないものか、そういう問題意識がこのプロジェクトの背景にはありました。

そこで着目したのが薬剤師の役割です。なぜなら、製薬会社は、患者さんが薬の用法・用量を守り服用するという前提で医師に宣伝しています。医師は、薬剤師が患者さんに服薬指導を行い、患者さんが薬をきちんと飲むという前提で処方箋を書いています。ということは、一連の医療行為のアンカーは薬剤師なのです。薬剤師が、患者さんに対しどうしてこの薬を飲み続けなければならないかなど、的確な服薬指導を行い、アドヒアランスの向上が図れれば、ドロップアウト率は改善するはず、そう考えました。

そして、服薬指導の支援ツールとして使えそうだと思ったのが、電子薬歴システムです。「スピリーバ」が処方され、薬局で薬歴に入力された時点で、これだけは患者さんに伝えてほしいという服薬指導箋の内容を、分かりやすくポップアップの画面で出す、という仕組みができないか。幸いグッドサイクルシステムが開発してくれることになり、同社のシステムを導入している薬局のご協力もいただきながら、プロジェクトは2010年10月スタートしました。

試行錯誤を重ねた末、2011年3月から12年2月の1年間で、患者さんの年間調剤数と来院回数で30%以上の増加が確認できました。つまり、これまで65%ドロップアウトしていたCOPDの患者さんのうち、30%以上が脱落せずに治療を継続しているということなのです。

これは、製薬会社がほとんど手を打ってこなかった領域での試みといってよいでしょう。患者さんに薬を渡す薬剤師が、電子薬歴システムに載せた分かりやすい指導箋で、漏れなく的確な服薬指導を行えば、アドヒアランスの向上が図れ、事態は改善するはず、というわれわれの仮説が実証されたといえます。

しかし、目指すゴールはまだまだ先です。というのはCOPDの死亡者数は減っていないからです。平均処方年齢は70歳を超えています。治療効果が期待できる40代50代を対象に、どうやってCOPDの疾患啓発や受診勧奨を行い、早期発見早期治療、アドヒアランスの向上を推進していくか、これらは大きな課題です。薬剤師による一言二言の問いかけで潜在している患者さんを発掘できる可能性も高いと思います。

われわれ製薬会社は、COPDに限らず、患者さんへの治療貢献のためにも、薬局・薬剤師の機能強化に向けた支援に取り組んでいかなければならないと考えています。

加藤 久幸(かとう ひさゆき)氏
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社顧客支援推進本部マネージャー。薬剤師。

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