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コラム

慢性疾患のアドヒアランス向上を目指した服薬指導と薬局・薬剤師のこれからの役割

2015-01-01

健康寿命を延ばす取り組みを

いま騒がれていることのひとつに団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」があります。国民の4人に1人が75歳以上となり、医療費が大きく膨らむ可能性が考えられます。このような状況で国が強調しているのが、平均寿命と健康寿命の差です(図表1)。この差が寝たきりや介護が必要な不健康寿命であり、医療費が一番かかるわけです。

「日本再興戦略 改訂2014」では「健康寿命の延伸」を掲げ、2020年までに健康寿命を1年以上延ばすことやメタボ人口を減らすこと、健康診断の受診率向上を目標値に設定しています。

図表2の「死因順位別死亡率の年次推移」をご覧ください。ここで注目したいのが脳血管疾患です。2011年から4位になったので死亡率が減少したように見えますが、“介護が必要となる疾患の第1位”であることには変わりません。

ですので、脳卒中予防や脳卒中の早期発見のための情報を薬局から発信することが大切です。高血圧症で一番怖いのが脳内出血。脳内出血が起こったときの症状に気付いたらすぐに救急車を呼ぶことが大事。その徴候としてFASTを伝えるのもまた薬局、薬剤師の役割であろうと思います。(図表3)

3つの大きな動き

こ2014年6月に閣議決定された3つの大きな動きについてお話します。

ひとつは先ほどの「日本再興戦略改訂2014」。民間を活用した健康情報拠点「街のワクワク(WACWAC)プレイス」(仮称)構想が掲載されています。この健康情報拠点には民間企業(コンビニエンスストア、飲食店等)と書かれているだけで、薬局が含まれていません。ここに私は大きな疑問を感じています。

2つ目は「経済財政運営と改革の基本方針2014について」。「薬価・医薬品に係る改革」の中に、「診療報酬上の評価において、調剤重視から服薬管理・指導重視への転換を検討する。その際、薬剤師が処方変更の必要がないかを直接確認した上で一定期間内の処方箋を繰返し利用する制度(リフィル制度)等について医師法との関係に留意しつつ、検討する」とあります。この文章では、調剤技術料を下げる方針であると読み取れます。そうすると薬剤師が生き残っていくためには何が必要かと言えば、「服薬管理・指導重視への転換」です。

リフィル制度で重要な点をお話します。例えばある高血圧症患者がACE阻害剤を飲んでいたとします。ある日腰が痛くなりました。整形外科に行ってロキソプロフェンが処方されました。ロキソプロフェンは血圧を上げる可能性があります。このとき薬剤師が、患者に「ロキソプロフェンが処方されたので、高血圧症について再受診したほうがいいですよ」とお話するか、ドクターへの相談として「腰痛でロキソプロフェンを服薬してから、ちょっと血圧が上がってきました。ACE阻害剤の量を増やすか、それともロキソプロフェンとの相互作用が少ないといわれているカルシウム拮抗剤への変更についてご検討ください」と言えるかどうか、そういう判断がリフィル制度において重要な点なのです。

3つ目は「規制改革実施計画」です。この中に「医療用検査薬から一般用検査薬への転用の仕組みの早期構築」とあります。今後、白血球や赤血球、CPK、肝機能など49の検査のOTC化が検討されています。これは副作用早期発見のためのスイッチ化も含まれており、薬局が患者さんの負担分で経営できるよう大転換を図っていくための国の指針ともいえます。

これからの薬局の在り方

「健康日本21(第二次)」では、2020年に向け、高血圧の改善目標値が設定されております(図表4)。「栄養・食生活」「身体活動・運動」「飲酒」「降圧薬の服用率」の要素を改善した場合の目標値は、収縮期血圧で4mmHgの低下と設定されています。これに加え、「脂質異常症」「喫煙」「糖尿病」の危険因子において、それぞれ図表に掲げてある改善目標を達成した場合、脳血管疾患が減少し、年齢調整死亡率が男性で15.7%、女性は8.3%減るという試算目標をはじき出しています。

ここで大切なのは、アドヒアランス向上のためには、いま述べた生活習慣の改善などの要素を説明しながら、薬を飲む大切さを患者さんに伝えていくということです。塩分摂取についての注意を促すときも、通り一遍の説明ではなく、食べるのを控えたほうがいい食品の写真を撮って掲示したり現物を置く。そうしたことが健康情報拠点としてのこれからの薬局の在り方といえます。

マイナンバー制と薬局

医療分野におけるマイナンバー制ですが、これが実現すれば、患者が自分の検査データをどこでも見られるようになっていきます。そして、そのマイナンバー制の中に「薬物代謝酵素の遺伝子多型」の情報が絡んでくると、この人にこの薬を処方すると副作用が出やすい、というようなことが自動的に分かるようになるはずです。そうなったとき、薬物代謝酵素の遺伝子検査の鍵を握るのは薬局であってほしいと私は強く願っています。

これからの医療は、地域の多職種連携によって支える時代になっていきます。地域包括ケアシステムの計画に、薬局・薬剤師がどう関わっていくべきか、しっかり見定めながら行動していくことが必要です。

※この記事は、2014年7月27日に開かれた〈第14回 薬剤師力向上セミナー〉(弊社主催)の内容をもとに構成したものです。

堀 美智子(ほり みちこ)氏
医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。薬剤師。名城大学薬学部薬学科卒業・同薬学専攻科修了。名城大学薬学部医薬情報室、帝京大学薬学部医薬情報室勤務を経て、1998年に医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー設立に参加。1998~2002年日本薬剤師会常務理事。八王子にアンテナショップとして開設した公園前薬局を運営しながら、各種データベースの構築や執筆活動に携わっている。『知らないと怖いクスリと食品の危険な関係!』(マガジンハウス)、『プライマリ・ケアに活かす薬局トリアージ』(じほう)、『薬剤師の読む枕草子』(アルタ出版)など著書多数。

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