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コラム

薬局・薬剤師の未来を考えよう!薬局・薬剤師の生き残り戦略2014~キャリアデザイン&薬局経営

2015-01-01

調剤医療費の増大、医薬分業に対する批判など、さまざまな課題を抱えるなか、薬局・薬剤師は国や国民の理解を得て、どのように活路を見出していくべきか。一般社団法人保険薬局経営者連合会会長の山村真一先生に、多様な事例を交えながら、これからの薬局・薬剤師の在り方についてお話していただいた。

薬局ならではの価値を“具体的に示す”ことが必要

今回は「薬局・薬剤師の生き残り戦略2014」というテーマではありますが、毎年戦略が変わるというわけではありません。ただわれわれを取り巻く環境が当初の予想通りに動いているので、本日はこうした動向を例として交えながら、今後の戦略を考えていく時間にしたいと思います。

さて、多くのセミナーなどでも薬局・薬剤師の生き残りの話題になると、最後は在宅がキーワードで終わる事が多いようです。確かにそれも事実ですが、それだけを答えとしてよいのか、在宅の次に何があるのか、在宅以外にも考えるべきことがあるのではないか、ということを薬局の経営者や薬剤師の方々は多かれ少なかれ感じているのではないでしょうか。

実際既に多くの薬局は在宅に力を入れ、活躍を始めています。しかし、それでもバッシングがなくならないのはなぜなのでしょう。そう考えると、現状の働きだけでは足りないのかなというふうに感じます。

ここで何よりも大事なのは、私たちの環境がどのように動いているのかを正確に察知するアンテナを持つことです。2014年8月25日に日本学術会議と日本薬学会が開いたシンポジウムで、厚生労働省医薬食品局総務課医薬情報室の田宮憲一室長は「医療の質向上への貢献を示すエビデンスの構築が必要だ」と述べています。

医薬分業のメリットを普及啓発していないから、バッシングを受けるのだという解釈もありますが、私はそうは思いません。患者がそのメリットを感じることが大事なのです。薬局・薬剤師ならではの業務を訴求するための、〝見える化運動?などもありますが、むしろ今すべきなのは薬局ならではの価値を“具体的に示す”ことだと思っています。

虫の目、魚の目、鳥の目3つの目で業界分析をする

ショッキングだったのが2014年7月に公開された経済財政白書です。調剤医療費について書かれること自体が驚きなのですが、「調剤医療費の伸び率抑制策」という項目まであります。とはいえ、薬局や薬剤師を責めている論調ではありません。日本経済にとって社会保障費の増大は最も深刻な課題ですし、とりわけ調剤医療費の増加が大きいのは客観的な事実です。それくらい容易ならざる局面を迎えている問題として捉え、メーンプレーヤーであるわれわれが中心となって解決していかなければいけないステージに立っているという強い認識が必要です。

10兆円に迫る医療用医薬品の市場性について、数字を追ってまで見ることは、薬局・薬剤師の現場の意識として弱い部分かもしれません。しかし医薬品を供給し、医療コストをマネジメントしなくてはならない立場として、例えば<プラビックス>や<ブロプレス>など売上上位の薬剤に関しては、特に責任をもってコストダウンしていく戦略もこの先必要でしょう。

では次にそのような戦略をハンドリングする組織運営というものについて目を移してみます。

ローソンは、介護の必要な高齢者を支援するコンビニを、大都市部を中心に3年で30店ほど出店する計画を発表しました。われわれの領域を脅かしているような感も受けますが、会社の方針として地域のお客さまの変化に機敏に対応することを打ち出しており、そのひとつに健康概念があるわけです。これはまっとうな業界分析であり、取り組みであるといえるでしょう。機敏に反応するという点において、ローソンのような企業はトップダウンが利きます。だからこそ、このような方向転換がスピーディーにできるわけです。

これに対して薬局はどうかというと、仮に日本薬剤師会が何か言ったとしても、そこから県薬、さらに支部に下りて、現場に来る頃には切迫感が薄まってしまい、スピードで負けてしまうのは否めません。

こうした業界分析をする際、大事な視点が3つあります。足元に密着して地道に分析する「虫の目」、潮流を逃さない「魚の目」、そして大局を俯瞰する「鳥の目」です。虫の目で見ると、薬剤師は患者一人ひとりを目の前にして個別に一生懸命真摯に対応している、と映るかもしれませんが、それでもバッシングを受けるのは、大事な何かが欠落しているからかもしれない。そういう意味で、魚の目と鳥の目が足りていないのではないかと私は感じています。

薬局・薬剤師のあり方は“そもそも論”で考える

改めて、質の高い薬局・薬剤師サービスの提供とは何か、薬剤師・薬局機能の有用性の立証とは何かをわれわれならではの視点で考えてみましょう。

ソーシャルメディアの時代になり、さまざまな場面でパラダイムシフトが起きています。そのキーワードとして、次の5つがあると思います(図表1)。ソーシャルメディア時代においては、誰もが納得できる透明性のある時代に突入し、さまざまな物事が腑に落ちるように解決していくのだとしたら、夢と希望が湧いてくると思いませんか。

薬局と薬剤師のあり方も、“そもそも論”で考えれば、答えが見つかるような気がします。国民にとってこういう薬局であるべきだろう、薬剤師にはこういう業務をしてもらいたいのだろう、と国民目線で考えれば、きっとそれが正解なのです。われわれは業界の立場で考えることに慣れてしまっているので、それを切り替えることが、ここに掲げたようなパラダイムシフトにつながるのだと思います。そういった意味で今の私たちに必要なのは、“価値あるインテリジェンス”です。つまり、「国民にとっていいことなのか」という価値観で物事を見極めて、アクションをする。その価値観に基づいた情報の選択、判断の選択をしていくことが必要なのです。

早急に取り組まなければいけないのは、薬局・薬剤師ならではの価値の提供と新たなる収入源の確保です。今後ますます医療費は枯渇し、パイの取り合いが予測されます。処方箋に依存してきた経営体質を転換して、薬剤師の職能裁量の拡大という視点も含めた新たなる収入源を考え、戦略を立てていかなければいけません。

見えていなかった行動領域で新たな活路を見いだす

風邪などの軽い症状は公的負担のない大衆薬の利用を促すアイデアを、薬剤師側からではなく、OTCメーカー側から発案されたという報道がありました。本来なら医薬品をマネジメントする立場にある薬剤師の方から出てくるべきなのですが、どうも魚の目線が欠落していて、的を射た行動を取るのが苦手のようです。

その意味で、今着目していただきたいのは、“保険者の視点”です。これまでレセプトデータは電子化されていたとしても、ほとんど活用されてきませんでしたが、これからは「データヘルスで国民皆保険を守れ!」という号令が出て動き始めましたので、レセプトデータに加えて健診データも新たに用いることで、無駄な投薬や治療を見直す事ができるようになってきました。たとえば40代で10キロ以上体重が増えた人にターゲットを絞って保健指導をする、というようなことが可能になっているのです。

これについては、以前から早々と取り組んでいる健保組合もありましたが、現在は全健保が尻を叩かれるような形で、取り組みが始まっています。しかし、そのことすら多くの薬局は把握していないのが現状です。各健保組合が持っている組合員の健診データと、病院や薬局のレセプトデータを合わせたら、すごいことができそうですよね。そこが今、非常に期待されている市場であり、インヴィジブル・フロンティア(Invisible Frontier)、つまり私たちには見えていなかった、活路となり得る新たな行動領域といえます。

今まで医療機関や薬局は、保険者に対してレセプトの請求者と支払者という関係に過ぎませんでしたが、その関係性の中にニューフロンティアがあるのかもしれません(図表2)。

また糖尿病が重症化すると、人工透析で年間ひとり約550万円の費用がかかるといわれています。しかも今は透析患者も長生きすることが可能なので、毎年この金額が発生するわけです。もし私たちが何らかのアクションを起こすことで、人工透析に至らない、もしくは遅らせるようにする、あるいはその前段階でインスリン使用への移行を遅らせることができたらどうでしょう。もちろん生活や食事の指導を実施している薬局はたくさんありますが、コストも含めてそういった視点を持つことは少なかったのではないでしょうか。「これだけコストが変わってくるので、それを改善するための努力を私たちがします」と、何かしらのコンテンツとともに提案できたら、新たな可能性が見えてきますよね。

調剤重視から服薬管理・指導重視への転換

後発医薬品の活用に関しても、本来であれば薬局・薬剤師がもっと主導権を握って旗を振るべきでした。なぜならば後発医薬品に切り替えるキーパーソンは、われわれ薬局・薬剤師ではありませんか。もっと早いうちから、「私たちがやります!」と国にアピールして、国民にもメッセージを送るべきだったのです。しかしそれをしないまま、なし崩し的に現在に至ってしまっているのは、非常に残念なことと言わざるを得ません。

国が2014年6月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2014」では、薬価・医薬品に係る改革に関して次のように述べています。「医薬分業の下での調剤技術料・薬学管理料の妥当性・適正性について検証するとともに、診療報酬上の評価において、調剤重視から服薬管理・指導重視への転換を検討する」。これに対してもわれわれのほうから、「こうしたらどうですか」と提案すべきなのですが、実際は国の出方をただ待っているだけに過ぎません。

国民を薬物による有害事象から守るためにも、“効果の最大化とリスクの最小化”を薬局は示していかなければいけません。このことについて、薬局の窓口で胸を張って「きちんとやっている」と言えるでしょうか。実行動として、まだまだ弱い部分は否めないはずです。「薬剤師がお薬のライフガードとして見守ってくれているから安心だ」という感覚を国民に持ってもらうことが、おそらく今はまだできていないのが現実だと思います。

「俺がやる!」という気概で薬局の未来は自分で創る

保険調剤業務は、今や7兆円産業といわれており、保険薬局の受け取る処方箋は年間約8億枚となっています。処方箋ビジネスと化してしまった川下ビジネスとしての調剤薬局業務には、厳しい時代が訪れています。しかし“最終ゲートキーパー”としてのわれわれの責任は、これからも堂々と果たしていくべきです。それに加えて、これからは川上戦略、つまり医者に行く前の“ファーストゲートキーパー”として薬局の業務を拡大していくことが、とても重要になってくるでしょう。

今お話をしたようなさまざまな予防、新しいアクション、新しいフロンティアが目の前に広がってきたのですから、これから起こる変化を受け身で待っているのではなく、自分の頭で考えて、自ら開拓する気概がほしいと思っています。

マイクロソフトのビル・ゲイツや、アップルのスティーブ・ジョブズなどの例を挙げるまでもなく、個人の力で社会が変わることを実感しているわけですから、私たちの業界も決して無理なことではないはずです。「俺がやる!」というくらいの気概をもってこの業界を変えていく勢いがほしいですし、イノベーションは合議では生まれないと思っていいでしょう。時代を変えていくのは、卓越した個人のアイデアややる気であり、その勇気が時代をブレークスルーしていくのです。

薬局単独ではできないと思われているようなことも、みんなで力を合わせればできるかもしれません。そのためにも保険薬局が連携して、社会的使命を果たそうではありませんか。そして薬局の未来を、ほかの誰でもなく自らが創っていくつもりで、これからの時代を突き進んでいただきたいと思っています。

〇この記事は、2014年8月31日に開かれた〈第15回薬剤師力向上セミナー〉(弊社主催)の内容をもとに構成したものです。

山村 真一(やまむら しんいち)氏
一般社団法人保険薬局経営者連合会 会長。薬剤師。1979年昭和大学薬学部卒業。1980年プライマリーファーマシー開局。2005年バンビーノ薬局を開局。2011年中小の薬局経営者を中心とした一般社団法人保険薬局経営者連合会を設立。2013年薬事政策に関する調査研究や薬事データの収集と解析、薬局経営などに関するコンサルティング業務を行うシンクタンク組織、株式会社薬事政策研究所を設立。時代の求めに応じ、安全で高品質な医療を低コストで提供できるよう業界の窓口となり、国民の利益に貢献する事を目指し、広範な活動をしている。

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