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コラム

ハイリスク薬の薬学管理指導のチェックポイント~精神神経疾患の患者対応

2013-09-01

うつ病や統合失調症など、精神疾患患者に対する精神神経用剤のリスク管理はどうあるべきなのだろうか。株式会社医療経営研究所研究員・富永敦子先生に、ハイリスク薬の薬学管理の基本を踏まえた患者対応のあり方について、多角的な視点からご教授いただいた。

精神科医療の現状

2012(平成24)年現在の<死因順位別の死亡率(対10万人)>を見ると、1位がん(286.6万人)、2位心臓病(157.9万人)、そして7位自殺(21万人)となっています。自殺者のうちの何割かは精神神経科の患者である可能性があります。

また、医療機関にかかっている患者数は厚生労働省の統計によると、がんや糖尿病を抜いて、精神疾患が一番多く、そのうちの1割は入院しているという数字を示しています。現在の日本において、医療全体に占める精神神経疾患患者の割合の大きさをあらためて認識させられます。

医師と薬剤師との連携

ハイリスク薬を扱う医師と薬剤師は、リスク管理の重責を負っています。両者は、自分の業務を遂行しつつ、お互いをチェックし合い、必要に応じて連携し合うことが、より確実で、密度の濃いリスク管理につながります。

薬剤師から医師へのフィードバックがあってはじめて、一連の医療チームとしての業務進行が完成すると私は考えています。とりわけハイリスク薬を扱う場合には、薬剤師がどう服薬指導したか、患者がどういう症状、副作用などを訴えたかという情報を医師に伝えることで、その後の治療に役立ててもらう。そんな連携プレーが今後の精神科領域では、ますます必要になっていくと思います。

精神神経用剤のリスク管理

日本薬剤師会では、<ハイリスク薬の管理指導に関するガイドライン>を定めています。この中の精神神経用剤に関する要件を踏まえ、私のほうで組み立てたのが図表1のリスク管理方法です。

うつ病と統合失調症については、副作用も幅広くなっていますし、とりわけ「自殺企図のサインに注意」することや、生活習慣などを含め、「適切な服薬指導」をしていくことが重要です。

うつ病と薬物治療


まずうつ病についてですが、うつ病は図表2に掲げるような独特の「認知のゆがみ」を伴うという特徴があり、うつ病は患者の脳内で種々の神経伝達物質が減少することによって、各物質特有の症状が現れるという因果関係が解明されています。(図表3)

抗うつ剤のチェックリストをご覧ください(図表4)。内容はハイリスク薬のものと同様で、服薬状況がとても重要です。自殺企図のサインを見逃さないことも必須です。

実際の服薬支援のポイントを紹介します。まず、病気になりたての急性期には、以下の6点を説明します。

(1)薬物療法は治療に必要であること
(2)抗うつ薬はつらい症状を改善すること
(3)継続して服用することの重要性
(4)効果が出てくるのには時聞がかかること
(5)治療に対する疑問、不安、心配などが生じたらすぐに相談すること
(6)副作用について

次は継続期・維持期のポイントです。

(1)残存症状、気になる症状の確認
(2)生活リズム、環境の調整の確認
(3)気長に治療を継続することを説明
(4)自己判断で用法・用量を調節しないことを説明

抗うつ剤や抗精神病薬には、重篤な副作用を引き起こすものがあります。図表5にあるように、ドーパミンD2受容体遮断による悪性症候群では、薬剤の中止や変更で1週間以内に発症することが多く、すぐ治療しないと死に至る恐れがあるので要注意です。

うつ病患者との向き合い方

患者と直接接するという立場上、薬剤師がその職能の範囲内で行えることは決して少なくないはずです。

具体的にいうと、できるだけ早い時期に、「いなくなったら楽かなと思う気持ちがあっても、それは一時的なものだから絶対にダメだよ、約束できる?」というように、患者自身が「分かった」と答えられるような方法で語りかけ、「自殺はしない」という誓約へと仕向けるとよいでしょう。

さらに、人生に関わる重要事項は延期することをすすめ、病状についても、一進一退すること、少しずつよくなっていくと話してきかせます。

さらに治療には薬の服用が重要で、ただし副作用もいろいろ出てくる可能性があり、そのときは薬剤師が必ず相談に乗るということを知らせておくのも大事です。こうした精神的サポートは治療に不可欠です。

統合失調症と薬物治療

次に統合失調症ですが、その定義は図表6にあるような陽性症状と陰性症状が現れる病気です。

この病気の治療については、薬物治療+精神療法さらにリハビリテーションが行われますが、医師と連携して段階を踏んでいくのは、うつ病などと同様です。その治療目標のアウトカムは、図表7のとおりです。

ここでも、アドヒアランスの確認は大切で、(1)飲み忘れ(2)自己判断による自己調節(3)継続の必要性の理解といった点は抗うつ薬と同様です。

統合失調症の患者の場合には、加えて、服用に対しての不安、質問はないか、家族の協力の有無や家族の状況なども忘れずに確認してください。

現在、原則として非定型抗精神病薬が第一選択として使われています。非定型薬は、ドーパミンD2回受容体遮断、セロトニン5‐HT2A受容体遮断、セロトニン5‐HT1A受容体刺激、ヒスタミンH1受容体遮断、アセチルコリン受容体遮断、アドレナリンα1受容体遮断という機能を有し、急性期症状において定型薬とほぼ同等の有効性を発揮することが可能である上に、副作用(錐体外路症状や過鎮静など)が少ないことがメリットだからです。

統合失調症患者対応の留意点

薬学管理のほかに、精神科の患者、特に統合失調症患者への対応で注意すべき点をここに挙げておきます。

(1)患者の興奮を誘発するような刺説的言動は避ける→幻覚とか妄想の話を聞いても驚いて過剰反応せずに、冷静に受け止める
(2)安心を与え、友好的な態度を保つ→いつでもあなたの話を聞くという姿勢を示す
(3)休養や服薬の必要性を説明する
(4)本人が自覚できる問題を取り上げて、服薬の必要性を伝える→例えば、眠れないとか身近な問題を引き合いにして、それを解決する手段として薬を利用する方法を説明する
(5)○○すれば大丈夫と声掛けする→患者が安心できるような行動を奨励する
(6)ポジティブな方向への説明を心がける

自殺予防のゲートキーパー

精神科の患者は、自殺という最悪の結果を招く可能性があることを常に忘れずに、患者の話をよく聞くことで信頼関係を構築し、医師との連携を大事にして、患者と共に病気の寛解を目指していくよう努めてください。

自殺の予防についてですが、2008(平成20)年、内閣府自殺対策推進室が「自殺予防の10か条」を対策の一つとして公表しています。以下の10項目は、自殺の可能性のサインとして心にとめておきましょう。

(1)うつ病の症状に気を付ける(気分が沈む、自分を責める、仕事の能率が落ちる、決断できない、不眠が続く)
(2)原因不明の身体の不調が長引く
(3)酒量が増す
(4)安全や健康が保てない
(5)仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
(6)職場や家庭でサポートが得られない
(7)本人にとって価値あるもの(職、地位、家族、財産)を失う
(8)重症の身体の病気にかかる
(9)自殺を口にする
(10)自殺未遂に及ぶ

特に、自殺者のほとんどが、実際に最期の行動を起こす前に誰かに打ち明けているので、それを聞き逃さないことが大切です。

私たち薬剤師は、自殺予防のゲートキーパーとしての役割をも担っています。それを自覚し、実際の業務において、予防策を効果的に実施していくことや対処方法などについてしっかり考えておくべきだと思います。

自殺念慮のある患者と向き合う

薬剤師がその業務上、行うべき自殺予防のためのポイントは、図表8のとおりです。

特にうつ病患者の場合は、一人にしないよう家族や周りの方に伝えておくことです。一人暮らしか、家族と同居か、親しい友達はいるのかといったことを、普段の患者との会話から把握し、一人にしないような対策を講じる一助とします。

一方、統合失調症患者の場合は症状の波からいって、自殺の危険を予測するのがかなりむずかしいとされています。急性の精神症状が起きて、命令の幻聴や妄想といった病的な症状に支配されると決定的な行動に移してしまうことがあるからです。

普段から「それは現実とは違うことだからね」というような声掛けをしておくことも有効でしょう。急性症状が消退直後には、今度は急に自分の価値が低くなり、「もうダメだ・・・」と自殺企図に至ることもありますから、家族や周囲の人とも連携することが予防に役立ちます。

薬剤師としては過量服用に対する注意も怠らないようにします。具体的には、次のようなことが挙げられます。

(1)来局間隔、処方日数から過量服薬や依存傾向を確認する
(2)頓服としての服用について、その回数を確認する
(3)残薬を具体的に聞く
(4)自殺の可能性のある患者は、長期処方=大量服薬を避ける。
できれば1週間ごとの受診がベター。処方医と連携を取る

地域医療に必要な人材として

場合によっては、医師から「患者と話さないように、何も聞かないように」と指示されることもありますが、それでは大事な情報を肝心な担当医が見逃すことにもなりかねません。服薬処方のことはもちろん、薬剤師として気になったこと、薬局の現場で拾った患者の情報などを報告、提案するなら、例えばトレースレポート(図表9)という形で行うのも一つの方法です。

精神科領域の患者をフォローするにしても、あるいは一般的な診療所の患者さんに対して、精神科領域の専門家への受診奨励を行うにしても、専門の職能やコミュニケーションカを発揮し、薬剤師ができることはいろいろあるはずです。

ハイリスク薬の管理から患者のアウトカムに向かってサポートしていくことで、地域医療にますます必要な人材として活躍していただきたいと思います。

※この記事は、2D14年6月14日に開かれた「第13回薬剤師力向力セミナー」(弊社主催)の内容をもとに構成したものです。

富永 敦子(とみなが あつこ)氏
株式会社医療経営研究所研究員。薬剤師。東北大学薬学部卒業後、製薬メーカーの研究員、医薬品卸の管理薬剤師、OTC薬の販売、病院薬剤師、薬局薬剤師と、薬剤師としてのあらゆる業務を経験。2008年から医療経営研究所に勤務し、薬局向けの研修や指導を担当している。日本薬剤師研修センター認定薬剤師、宮城県薬剤師会認定禁煙支援・指導薬剤師、NPO法人ふぁるま・ねっと・みやぎ副理事長、宮城県薬剤師会理事、東北大学薬学部非常勤講師(薬学概論)、NPO法人医療教育研究所薬剤師生涯研修担当講師。

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