糖尿病治療における薬剤師の役割~アドヒアランス向上と薬剤の適正使用推進のために
2014-06-18
2014-06-18
合併症が怖い糖尿病。対策と改善の基本は、食事、運動、効果的な経口薬治療といわれている。糖尿病の専門医として患者教育に熱心に取り組んでいる菅原正弘先生に、患者さんが糖尿病について理解を深めるための工夫や薬剤師に求めることなどをご教授いただいた。
糖尿病予備軍と怖い合併症
日本は世界でも有数の高齢化国。今後もその傾向は続くと見られていますが、ある研究によると25年後の高齢者の多くが、糖尿病と密接に関連している認知症(アルツハイマー病)にかかると予想されています。今後、超高齢化社会を迎えることは、いかに糖尿病に取り組んでいくかということにつながると言っても過言ではありません。
現在、糖尿病と診断されている方あるいは疑われている方の6割が治療を受けていますが、一方で治療を受けていない方が4割近くいるわけで、特にまだまだ働き盛りの40歳代の方に、検査も受診もしないで放置しているケース、いわゆる予備軍が多いようです。こうした方にこそ、高齢者になったときに深刻な糖尿病にならないような対策が必要です。
ご存じのとおり、糖尿病で怖いのはさまざまな合併症を引き起こすこと。主な合併症は、視野障害を起こす網膜症、悪化すると透析を必要とする腎症、全身にわたり痛みを感じない、反応が鈍くなるなどの神経障害、動脈硬化や脳卒中を起こす血管障害が中心です。
合併症の進行程度を知る
実は、糖尿病の合併症の進行程度がぱっとわかるほどの医師や薬剤師はあまりいないと思います。そこで、目安として覚えておくとよいのが合併症の発症率。2型糖尿病を発症してから25年で神経障害が50%、網膜症が40%、腎症が30%。きちんと治療すれば、この数字が低くなるのは当然ですが、そのためにも眼科など関連する科でも検査、診療を受けることをおすすめします。
このほかの合併症として、認知症、うつ病、骨粗鬆症、NASH(脂肪肝)、歯周病、過活動膀胱が挙げられます。がんについても糖尿病患者の場合は発症率が一般の人に比べて高いという報告があります。
こうした合併症が進行すれば、最悪、死に至るほか、失明や下肢切断などの状況に直面。あるいは透析など長期の、厳しい治療が必要であるばかりでなく、軽度の症状であっても患者さんの生活の質を落とすことは否めません。
糖尿病治療のポイント
まずは、健康な人と変わらない健康寿命の維持を目指して、早い段階から糖尿病に注意することです。そのためには、さまざまな合併症の兆候はもちろん、血糖値のほかに、体重、血圧、血清脂質などの関連項目や生活習慣を含め、トータルで管理することが重要です。
糖尿病と診断されたり、あるいは疑われる場合に基本となるのは血糖のコントロールですが、日本糖尿病学会で報告されたHbA1c目標値は以下のとおりです。(1)「血糖正常化を目指す際」で6.0%未満(2)「合併症予防のため」で7.0%未満(3)「治療強化が困難な際」で8.0%。患者さんの年齢や低血糖の危険性など諸条件に配慮して目標値は設定されますが、だいたいこの数字を目安に対処するのが通常です。(参考図表)
具体的な診断、治療ということでは、国の政策で実施されたいわゆる「メタボ対策」の結果、検査で血糖値異常が発見され、まず食事や運動といった生活項目の改善による治療を行った結果、初期患者数が横ばいになるという良い傾向も見られます。
症状が進んだ場合でも、いまは比較的安全に血糖値コントロールのできるタイプの薬が出ていますから、低血糖に配慮しつつ、それらを利用するのも手です。薬でいえば、患者さんが糖尿病薬の処方箋を持ってきたときに、薬局の薬剤師さんからも、薬に関連すること以外の注意事項、例えば眼科を定期的に受診しているか患者さんがブドウ糖を携帯しているかなど、ぜひ確認していただきたいと思います。医師や薬剤師さん、家族などの声掛けが、病気の進行を抑える一助となるはずですから。
アドヒアランス向上のために
糖尿病治療薬について、医師は患者の病態に即した経口血糖降下薬を選択しますが、以下のポイントを基準として判断します。(1)食前、食後のどちらの血糖値を下げるか(2)膵臓に負担がかかるか(3)体重を増やすのか減らすのか(4)動脈硬化を抑制できるか(5)低血糖を起こしやすいか(6)薬の強さ(7)値段(8)服薬(注射)回数(9)グルカゴン抑制効果があるか。
こうした点から、患者の状態を把握し、説明した上で、メトホルミン、Dpp-4阻害薬、α-GIなど、適材適所の薬を処方します。一定の期間をおいてHbA1c値の変化を見ながら、場合によっては、それらを2剤、3剤と併用しますが、相性や効果を十分考慮したうえで最終決定するのは言うまでもありません。
合併症は避けたいものですが、糖尿病自体は患者さんの日頃の努力やアドヒアランスの向上で改善が期待できる病気です。少しでも患者さんの苦痛や患者数そのものを減らすために、関係する科目の医師や薬剤師も垣根を超え、協力していくべきだと私は考えています。
※この記事は、2014年4月20日に開かれた〈第11回 薬剤師力向上セミナー〉(弊社主催)の内容をもとに構成したものです。
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