薬剤師のための患者クレーム対応~クレーム対応に万全を期して、患者満足度アップを狙うコツ
2014-04-01
2014-04-01
調剤薬局の立ち位置が問われているいま、患者クレームにどう対応するのか、薬剤師が学び、実践すべきことは多い。その対策や患者とよい人間関係を構築する方策などについて、顧客満足度アップやクレーム対応のスペシャリスト、株式会社ウィ・キャン代表取締役の濱川博招先生にレクチャーしていただいた。
苦情とクレームは別のもの!?対応の方程式とは・・・
日本では苦情とクレームはあまり区別されていません。厳密に言うと「苦情とは不平不満を言うこと」で、「クレームとは何らかの賠償を要求すること」です。
例えば、患者さんから電話があり、「薬が足りなかった。今度から気をつけて」というのが苦情。言ってしまえばすっきりすることもあるようです。たいていは自分の期待が裏切られたことが原因で苦情となって表れます。一方、「薬が足りなかったから、すぐに自宅まで届けてほしい」と要求するのがクレームです。不平不満が蓄積したり、相手のミスで自分が不利益をこうむったと感じたとき、クレームに至ります。
どちらにしても対応の鉄則は、内容をよく聞き、期待に添えなかった事実に共感の気持ちを表すこと。そのうえで、できることとできないことを明確に伝えます。特にクレーム対応は担当者1人でなく複数の人で行うべきです。具体的にどのようなクレームなのかを、相手=クレーマーに詳細に聞くことが対応の第一段階となります。
そして、最初の言葉が大きなクレームに発展するかどうかの境目が、患者によるクレームに対する、薬剤師の最初の反応です。「家に帰って確認したら、薬の量が少し足りないようなんだけど」と電話があったとき、さて、皆さんならどんな第一声を発しますか?
(1)「え、そうですか?ちょっとお調べします」
(2)「大変申し訳ございません。お薬が足りなかったんですね。少しお話を伺わせていただけませんか」
どちらもほとんど変わりませんし、(1)も(2)もありですよね。でも、実際には(1)のように答える方が多いのではないでしょうか?
ところが、(1)のように答えると、患者は自分の言葉や行為を否定されたように受け止め、無意識のうちに感情的になってしまいます。だから、「足りなかったから電話しているのに、調べるってなによ」と思うばかりか、声を大にしてそれを口にする方もいるでしょうし、そこへ「いやぁ、お薬、足りないことはないようですね」などと対応しようものなら、「私がウソ言ってるっていうの?なんならウチまで見に来たら!」という険悪な方向に発展しかねません。しかも、相手は言いにくいことをわざわざ言っているので、声が大きくなったり、早口になったりするのも当たり前です。
かたや(2)のように言われると患者の気持ちが変化して「そうなの、○○の薬が足りなかったのよ」となり、その後は冷静な判断による会話へと進むことが期待できます。
このように、クレーム対応には解決の方向に向けて方程式があると心得てください。その方程式に従って、まずは謝ること。謝ってから相手の主張を聞く。そこから本格的なクレーム対応がスタートするのです。
その方程式をフローチャートにしたのが図1です。苦情を受ける→スピーディなお詫び→傾聴による内容の把握→判断へ。4つ目の「判断」で2つに分かれますが、内容が正当なものなら素早く解決策の提案をして解決へ。一方、悪質で悪意が感じられる内容なら、すぐに回答せずに、ゆっくり余裕を持って組織として対応しましょう。
サービスへの期待度が患者満足度に反映される
ここで簡単に顧客満足度に触れておきます。ある「調剤薬局の患者満足度調査」において、「薬剤師の説明内容にどの程度満足しているか」という設問に10段階で回答してもらったところ、10点の「非常に満足している」という回答が18%でした。9点の12%を加えても30%。
実は、本当の意味で満足しているのはこの30%の人たちだけで、あとはどこの薬局でも同じというのが本音なのです。しかも、この10点(非常に満足)の18%の人たちが全体の7~8割にならないと、その薬局に対するロイヤルティ(信頼)を得たことにはないものなのです。ですから、「やや満足」という回答は、満足していないに等しいと思ってください。
で、この顧客満足度が曲者で、実は同じサービスの提供を受けても、受け手の感じ方によって満足度が異なります。その満足度の鍵を握っているのは、「患者さんが調剤薬局に対してどんな、あるいはどの程度、期待をしているか」ということです。
残念ながら、いまの調剤薬局は院内薬局が外に出ただけのようなところがほとんどで、そういう薬局に対して患者さんが期待することがらは、決して多くありません。「なるべく早く薬を出してほしい」「待ち時間を短くしてほしい」「説明なんか必要ない」くらいではないでしょうか。
とはいえ、なにかあればクレームは発生するわけですよね。しかも、患者さんというのは、いつでも期待したサービス以上のことをさらに期待するので、不満な人にはいつまでたっても不満が残るものなのです。
それでも、例えば立地が悪くても、患者さんにきっちり説明のできるような調剤薬局として矜持のある薬局になろうと考えるのも一つの患者満足度対策といえると思います。その場合、逆に、患者さんにどんな期待を持って来ていただこうかという施策が必要で、そのためには業務フローも変わってくるでしょうし、薬剤師さんの立ち居振る舞いも変化するはずです。そうやって、自分たちも変革しながらサービス提供することが、満足度の高いへとつながる可能性が望めます。
4つの欲求と5つの要素。それを満たすクレーム対策
次にクレームについてですが、クレームは利用者が期待したサービスが提供されないと感じることで発生します。では、期待したサービスとは何か?
それは図2のような、患者さんの4つの欲求と言い換えることができます。(1)機能・品質欲求=「できて当たり前」「満足できて当然」のサービス内容、医療の場合では治療技術や看護技術、処方技術(2)経済欲求=サービスと対価が見合っているかどうか(3)愛情欲求=自分の気持ちを分かってほしい、理解してほしい(4)尊厳欲求=人として大切にしてほしい
この4つのどれかについて不満がたまり、自分で思っているレベルより下回るとクレームという形をとって発散される、というわけです。
この4つの欲求、すなわち期待するサービスには、その満足度を測る5つの要素(図3)があります。「信頼性」「安心性」「有形性」「共感性」「迅速性」の5つです。これらは患者満足度をアップさせるために、薬剤師さんにはぜひ身につけてほしい内容ばかりです。
以上の<4つの欲求と5つの要素>を関係づけることによって、薬局がすべきクレーム対策が浮かび上がってきます。これをまとめたのが図4で、それぞれのポイントは次のとおりです。(1)信頼性→専門技術と調剤薬局としての責務を果たすこと(2)安心性→分かりやすい説明、親切な対応、インフォームドコンセントを実施すること(3)有形性→ハード(清潔な店舗や器機)の充実と職員の“らしさ”=きちんとした身だしなみ、立ち居振る舞いなどが主張されていること(4)共感性→服薬の面倒さへの理解を示し、それを接遇、応対の際に表す(5)迅速性→不測の事態が発生した際、スピーディな対応能力を発揮する。
こうしたポイントを踏まえ、何かクレームが寄せられた場合、この<4つの欲求と満足度を測る5つの要素の関係>の表(図5)を利用して、何が足りないのか見つける、あるいは対策を講じる一助としてください。
例えば、狭い店内のカウンターというオープンスペースで病状を説明するのはプライバシーがない、というクレームがあるとします。その場合、この患者さんの欲求は何かを考えます。患者が自分たちはプライバシーが守られるのが当然だと思っているなら、機能品質欲求に○がつきます。もしくは、「私のプライバシーをなんだと思っているの!」と怒っているケースなら尊厳欲求に○となります。この表の中で○がついたところの要因や欲求を掘り下げて検討していくことで、クレーム対応の道筋が見えてくるでしょう。
患者さんに信用される存在に。そこからクレーム対応開始
クレームの要素や原因が分かってきたところで、クレーム対応について解説します。そもそも、クレームは図6のとおり、3種類しかありません。その種類と対応例は、(1)クレームの内容が正当+その要求も正当→「対応」誠心誠意、謝罪する(2)クレームの内容が不当+その要求も不当→「対応」その場で断る、曖昧な返事はしない(3)クレームの内容が正当+要求が不当→「対応」結論が明確ならその場で断る、迷った場合は一旦預かる
例えば、薬が足りないというのは、(1)に当たります。(2)や(3)のケースで、毅然と断ることや金銭にからむ要求に対応するのは、とくに現場の若い薬剤師にはムリかもしれません。だから、上司と相談するために一旦預かるという対応が得策でしょう。
次に、クレーム対応に必要な心構えを挙げておきます(図7)。(1)顧客は不満を持っているということが、唯一の事実(2)自分たちが原因で不満を生じさせたことに対する理解と共感(3)先入観は持たない(4)まずクレームを言ってきた相手の言うことをきちんと聞く(5)議論しないで、その人の不満の原因を探る
クレームの1次対応をするときにはこうしたことを念頭に置き、まず顧客に信頼される存在になることが先決です。そのためには、図8のとおり、たった3つの要素を満たせばいいのです。「服装(身だしなみ)」「立ち居振る舞い」「言葉遣い」の3つです。
これらが適切かつ好ましいものであれば、接遇応対の最初のハードルはクリアできたも同然です。そのうえで、相手の話を優先して聞き、その間3分から5分は相づちを打つなどしながら黙って聞き役に徹します。
次にこちらが話すときは、相手の話を要約して確認し、すぐに回答、解決できることは、その場で実行。できないときはその旨を伝えます。回答が不明のときはその旨を伝え、いつ回答できるかを伝えておきます。どんなケースにしても、「大変申し訳ありません」とか、「お急ぎのお気持ちはよく分かります」というような謝罪と共感の気持ちを込めた言葉から始めて対応するとよいでしょう。
ただ、こうした対応は一朝一夕では身につきません。業務改革の一環として、日頃から組織として考え、実際に訓練するなどの対策が必要です。対策ということでいえば、施策やルールの詳細まで決め込んでおくこと、情報の共有化なども重要ですが、納品書の発行や長期服用患者に対する中間チェックシステムなど、クレーム防止のための仕組みづくりも、当然、考え、実施していかなくてはなりません。
これからの薬剤師さんには、いままでのテクニカルスキルの上に安穏としていた調剤薬局の薬剤師という殻を破り、顧客との良好な人間関係を築けるスタッフとして、意識改革を迫られていることを認識していただきたいと思います。
改革を進めるに当たり、一つには、調剤薬局が依然として院内薬局の延長線上にしかないと世間で思われていることへのカウンタープランも考えるべきです。薬剤師の仕事は“指導”ではなく、“商品説明”と心得て、差別化を図る道を探ること。患者にとって苦痛が多い薬の服用に対して共感の気持ちを持って寄り添うこと。そして、手強い団塊の世代を含む高齢者が薬局に足を運んでくれる施策を考えること。
こうした改革レベルの内容を一つひとつ進めていくことが、調剤薬局の生き残りを左右することでしょう。つまり、新しい道を歩むことで患者から選ばれる存在になれるかどうかが、その決め手にほかならないのです。
2024-07-01
2024-06-27
2021-07-06