薬剤疫学への誘い~エクセル統計を用いた分析
2014-01-01
2014-01-01
医師や医学系研究者の研究ツールとして必要不可欠な統計分析の手法を、薬剤師で取り入れている人はまだまだ少ない現状を踏まえて、統計分析の重要性とその活用法について、おふたりに指導していただいた。
薬剤師にとってなぜ統計分析が必要なのか?--杉森 裕樹先生
みなさんは薬剤疫学という言葉を耳にしたことがありますでしょうか。日本薬剤疫学会の久保田潔理事長の言葉を引用すると、薬剤疫学は「人の集団における薬物使用による効果と副作用を薬学的手法を用いて研究する学問」ということになります。これまで医療の世界では動物実験のデータを重視する傾向がありましたが、薬剤疫学は人を対象にするところが大きなポイントです。
疫学というのは統計分析をした結果、有意差があったかどうかが大事であるため、個人ではなく集団を相手にするのも大きな特徴です。ここで言う集団とは国や地域のことで、まさにメガデータを意味します。普段からみなさんは、薬歴管理システムや調剤などのデータを扱っておられると思いますが、そういった現場のデータが薬剤疫学でも非常に重要な要素になるのです。市販後調査も製薬企業などが多く実施しているのが現状ですが、医師や薬剤師が主導となって始める研究も今後必要です。
近年では薬学部も6年制となり、薬剤師の職能拡大も視野に入ってきております。問診を十分に行って副作用を未然に防いだり、臨床の場で直接患者さんと関わる機会が増えています。そしてそのような幅広い業務を通して、さまざまなデータが集積されています。経済産業省が指導する形で、こういった医療データベースを積極的に活用することで、経済を活性化させようという動き(「日本再興戦略│ JAPANisBACK│」)も一方であります。まだまだ慎重論もありますが、欧米の流れを見ると、そういったデータは今後ますます重要になっていくだろうと個人的には思っています。
現状の業務の中では、データを分析するゆとりなどなかなか持てない、というふうに医療関係者の多くは思っているかもしれません。しかし年間の医療費が40兆円に届こうとしている今日、国民にレベルの高い医療を効率よく提供するためにも、こうしたデータを分析して、何らかのアクションにつなげるという動きは、日本でも徐々に重視されるようになるはずです。
統計分析で実際にできることとは--静野 潤先生
データを解析するときに最も手間がかかるのは、統計解析にかけられるようにデータを準備するところで、全体の作業の9割くらいがその作業になります。統計ソフトを使って統計処理をすること自体は、あっという間に終わってしまいます。
エクセルにはピボットテーブルという機能がありまして、これはビジネス的にデータを分析するための集計機能といえます。このピボットテーブルを使うと、たとえば患者さんごとや、薬剤師さんごとなど、さまざまな視点で集計をすることが可能になります。ほかにもたとえば薬歴管理のデータベースに入っている情報と何らかのアンケートのデータを結合することも、エクセルを使うとできるようになります。統計で使う数値を求めるときは、統計関数と呼ばれる機能もありますし、分析ツールといって簡単な統計グラフを書いたり、実験のデータを分析するようなごく初歩的な機能もエクセルの中に入っています。
一方でエクセルのみの場合、集計したり、その結果を選定したりすることをバラバラにやらなければいけないのですが、統計ソフトを使えばこういったことをひとまとめに簡単にできてしまいます。ロジスティック回帰分析や多変量解析もエクセルのみではできないため、統計ソフトが必要になります。
むすび
統計ソフトには、SASやSPSS、Rなど様々なものがありますが、エクセルのアドインソフトである「エクセル統計」は、安価な上にさまざまな機能が使える非常に優秀なソフトといえます。
静野先生からご紹介いただいたように、慣れ親しんだエクセルででき、新たなソフトの操作方法を一から覚える必要はないため、実用的な統計手法を誰でも駆使することが可能になっています。学会などではこのような統計分析を用いなければ、証拠(エビデンス)として採用されにくく、薬剤師の情報発信力の強化につながりにくいのが現状です。薬局での調査や学会発表に“有意差”を出せるように、統計分析の手法を身につけることを強くおすすめします。(杉森)
(※この記事は、2013年10月12日に開かれた「第7回 薬剤師力向上セミナー」(弊社主催)の内容を要約したものです。)
2024-07-01
2024-06-27
2021-07-06