「骨太の方針2017」から見えてくる医薬品・調剤薬局を巡る今後の医療政策の方向性(1)
2017-07-20
「働き方改革」で薬局・薬剤師の勤務環境改善?

政府は今年6月2日経済財政諮問会議を開催し、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(以下「骨太の方針2017」)を発表しました。この方針は、一般的には「骨太の方針」と称されるもので、小泉内閣当時の2001年から自民党政権下で毎年発表される経済財政の基本方針です。

「骨太の方針」では、2020年度にプライマリバランス(基礎的財政収支)を黒字化する目標を堅持しつつGDPに対する財政残高比率の引き下げを目指したもので、各省庁を横断的に本年度の柱となる経済・財政政策が打ち出されています。今回の「骨太の方針2017」の全体を通して「第三の矢・構造改革の柱」として重視されているのは「働き方改革」。「働き方改革」により生産性を向上させ、その成果を働く人に分配することで、「成長と分配の好循環の構築にもつながる」としています。今年3月に政府は「働き方計画実行計画」を公表しましたが、これは当然、医療従事者にも適用されるものです。

「骨太の方針2017」は、医療・福祉等社会保障政策に係る記述もありますが、経済・財政政策の視点からの方針であるため、来年度に予定される診療報酬や調剤報酬、介護報酬等の改定に係る具体的な言及はありません。ただ「骨太の方針2017」の内容や、示された医療・福祉政策に係る厚生労働省の各種審議会、検討会の内容等を改めて検証しながら、今後の医薬品や調剤薬局に係る制度改正の動向を占ってみたいと思います。

「骨太の方針2017」で示された「働き方改革」と連動した議論として、今年4月6日に厚生労働省が発表した「新しい医療のあり方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長・東京大学大学院・渋谷健司教授)報告書(以下、同報告書)の内容の一部を紹介します。

その中には、「各都道府県の地域医療支援センター及び医療勤務環境改善支援センターの実効性向上」が明記されています。前者では大学病院や基幹病院等との連携を強化し、若い医師や医学生が主体的にキャリア形成を図り易い環境づくりへの支援を謳っていますが、今後、各地域で薬局薬剤師も含めた「医療従事者の勤務環境改善を促進する拠点」として期待されるのは後者になります。「医療勤務環境改善支援センター」(以下、同センター)は、2014年10月に施行された医療介護確保推進法で都道府県より委託を受けた企業・団体等に設置の努力義務が課せられたセンターとして、社会保険労務士や労務関係の専門家が医療機関や調剤薬局等に適切なアドバイスやコンサルティングを実施します。同センターのホームページには、2015年中には未設置だった佐賀、新潟、福島等にも設置され、全都道府県で整備される予定と書かれています。

同報告書では、今後「同センターの認知度向上へのマーケティングを実施した上で、個々の医療機関の勤務環境改善への取り組み事例や成功事例の情報を収集し、医療機関の“雇用の質”第三者評価を行なえる機能」を担える役割を期待しています。調剤薬局管理者の方々には、勤務環境改善の必要性や労務問題が発生した場合には、各都道府県に存在する同センターを気軽に活用頂けたらと思います。

■参考サイト:いきいき働く医療機関サポートweb(いきサポ)

更に同報告書では個々の医療従事者の「業務負担の最適化」の視点から、「医師-医師間で行うグループ診療の普及」や、「医師-他職種間で行うタスクシフティング(業務の移管)」/「タスクシェアリング(業務の共同化)の推進」等にも言及されています。

この流れから、医師の負担軽減については、諸外国で活躍する「フィジシャン・アシスタント(PA)」の資格を創設し、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等を出来るようにすること等の検討を求めています。前出・同ビジョン検討会は、主に医師や看護師の働き方にウェイトを置いたものですが、タスクシフティングやタスクシェアリング等の考え方は、調剤薬局等でも十分に適用できるものであり、現実に調剤薬局の現場では、試行的にタスクシェアリング等を導入する動きは既に見られます。

筆者が過去に取材した事例として、東京を中心に関東地方を拠点とする(株)フォーラル薬局グループでは、薬剤師に加えて管理栄養士・栄養士を採用し、全店舗に配置しています。栄養士・管理栄養士はメディカル・パートナーと称し、栄養相談や食事指導の他に、薬剤師をサポートする事務的な作業を担っています。

2009年の薬事法改正で誕生し、OTC医薬品を扱う薬局で現在、活躍している「登録販売者」等もタスクシフティングの一つの形態であり、「業務の最適化」や「薬剤師の負担軽減」の観点からは、医療機関よりも、むしろ調剤薬局の方が先鞭を付けているのかもしれません。一般用医薬品を取り扱う「健康サポート薬局」の普及が進むと、(薬剤師の中にも賛否両論あるが)登録販売者の活躍する裾野も拡がっていくことが考えられます。

ただ、毎年示される経済財政政策の骨格であり、イノベーションや経済成長を謳うべき「骨太の方針」で今回、唐突に「働き方改革」が優先すべきテーマとされたのには、正直言って違和感を持ちます。そもそも、「働き方改革」については国民の誰しも反対しないテーマですが、それが企業の生産性の向上や成長につながるというのは、いかにも無理があります。最近まで多くの企業経営者は、「労働コストカットでしか生き残れない」との安直な発想により、リストラや非正規社員の拡大に注力してきた現実を忘れてはなりません。要するに「働き方改革」には、企業経営者側と労働者側の利益が相反する部分が多いのです。

次回では「骨太の方針2017」に織り込まれた薬価制度や医薬品産業の抜本改革、予想される調剤報酬改定等について解説します。

(医療ジャーナリスト:冨井 淑夫)

 

twitter

facebook

ページトップへ戻る